「夢」対「現実」――。

 この夏の甲子園の決勝は、そんな対決でもあった。

 金足農業の活躍は、現代においては、おとぎ話のようだった。全国で過疎化がもっとも進む秋田県内の、「秋田市金足追分」(秋田駅から約13キロ)にある学校に通学可能な圏内から、たまたま集まった9人の3年生だけで戦ってきた。付け加えれば、3年生はわずか10人しかおらず、そのうちの9人である。

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秋田県大会から甲子園決勝まで「9人野球」で戦った ©文藝春秋

「選手、環境、練習時間」で制約がある金足農業

 監督がチーム強化のために欲しいものは3つだ。選手、練習環境、練習時間。制約のある公立高校はいずれの項目も十分に確保することが難しい。その公立高校の中でも、金足農は、人口減、雪国であること等を考えると、有利不利で言えば間違いなく不利の部類に入る。

 一方、そんな金足農と対戦することになった大阪桐蔭は、可能な範囲で、チーム強化のための条件をすべて満たしている高校だと言っていい。選手は西日本中心だがいずれも中学時代に全国レベルの実績を持つエリートばかり。専用球場を持ち、全寮制であるため、練習環境も練習時間も十分に確保できる。もちろん、そのいずれも労力の賜物以外の何物でもないのだが、労力をかけるにも限界のある学校からしたら、とかく羨望の対象となるのは致し方ないところだろう。

2007年、佐賀北対広陵の「構図」

 地元出身者だけの公立高校と全国的な強豪私学という極端な「構図」で思い出すのは、2007年夏の決勝、佐賀北対広陵だ。下馬評では、広陵が圧倒的に有利だと言われていた。だが結果は、佐賀北が8回裏、「逆転満塁ホームラン」という奇跡を起こし、5-4で全国優勝を遂げた。

 佐賀北が優勝した翌08年夏の決勝に、監督の百﨑敏克が解説で甲子園へやって来た。そして、感慨深げにこう語っていたものだ。

「去年、自分たちが、この場所にいたことが信じられませんねえ……」

「奇跡の逆転満塁ホームラン」で優勝した佐賀北。この2007年以来、公立校は夏の甲子園で決勝の舞台に立っていなかった ©文藝春秋

大阪桐蔭、日大三、東海大相模……公立校のつけ入る隙はない?

 私もまったく同じことを思った。その年の決勝は、大阪桐蔭が常葉菊川を17-0という大差で下した。大阪桐蔭の「1番・ショート」に浅村栄斗(西武)がいた時代である。とんでもない破壊力だった。

 仮に、その年、大阪桐蔭の相手が佐賀北だったとして、佐賀北は、どこまで渡り合うことができたのだろうか。そう思わずには、いられなかった。

 案外、いい勝負をしたかもしれないと思う一方で、さすがにこのチームが相手では「ミラクル」は起きようがなかったのではないかという気もした。

 思えば2008年夏、第90回の記念大会の夏から大阪桐蔭の時代が始まったのだ。以降、10年で、春夏合わせてじつに6度の全国制覇。振り返れば、毎年、「今年の大阪桐蔭は……」と言われるように、何らかの形で話題の中心にいた。

 08年夏以降、昨年までの優勝校を見れば見るほど、百﨑がこぼした「信じられませんねぇ……」という思いは強まった。大阪桐蔭(08年、12年、14年優勝)、日大三(11年優勝)、東海大相模(15年優勝)と、とてもではないが公立高校がつけ入る隙はないように思われた。