池上彰さんの連載「WEB 悪魔の辞典」では、政治や時事問題に関する用語を池上さん流の鋭い風刺を交えて解説します!
【多用途運用護衛艦・たようとうんようごえいかん】
「攻撃型空母」を持てないのでつけた奇妙な名前。
【池上さんの解説】
海上自衛隊の「いずも型」護衛艦を、事実上の空母に改修することが決まりましたが、政府は長年にわたって「攻撃型空母」は持てないと言明してきたので、「多用途運用護衛艦」と呼ぶことにしました。
安倍政権は、言葉の言い換えが得意です。武器輸出を「防衛装備移転」と言い換えたり、低賃金の外国人労働者を「外国人材」と呼んだりしてきました。
しかし、今回の言い換えは、誰のための言い訳なのでしょうか。
「いずも型」護衛艦には、アメリカの戦闘機F35Bを搭載する予定です。
この型の護衛艦は、ヘリコプターを運用するため、甲板が広くとってあるのが特徴です。外見はどう見ても空母ですが、日本政府はヘリコプターを運用する護衛艦だと言い張ってきました。
今回の改修は、アメリカの海兵隊仕様の戦闘機F35Bが着艦できるようにするものです。「いずも型」には、ヘリコプター2機を同時に甲板まで運べるエレベーターが設置されていますが、なぜかこのエレベーターは、「偶然にも」F35Bが入るサイズなのです。
最初から空母としての運用を考えていたことをうかがわせますが、日本政府はこれを「空母」と呼ばれたくないのです。
日本の自衛隊が空母を持たない方針であることは、1988年3月の参議院予算委員会で、当時の瓦力防衛庁長官が次のように答弁しています。「我が国におきまして専守防衛の精神は守っていかなければならない大切なことでございまして、空母を擁する、かような考え方はございません」
ところが、その直後に防衛局長が「攻撃型空母というものは持たないというように申し上げております」と答弁します。長官は「空母は持たない」と答弁し、局長は「攻撃型空母は持たない」と言う。どっちだ、と野党議員が追及します。
その結果、防衛庁長官は答弁を修正します。「攻撃型空母は持ち得ないところでございますが、防衛のための空母は持ち得ると、かように御答弁さしていただきます」
この頃から「防衛のための空母」を持ちたいと思っていたのですね。
しかし、いまさら空母と呼ぶわけにはいかない。そこで「多用途に運用できる護衛艦」と自称したのです。
言葉を曖昧にしたり言い換えたりして、本質に迫る議論を避けてきた。それが、いまの日本の現状なのです。
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