現役選手が根本的に持っている考え方とは
25歳の私はタイガースがセ・リーグを制した03年、05年のチームの雰囲気を知らない。が、当時の報道や伝え聞いた話によると、厳しく張り詰めた空気の中で練習、試合に臨んでいたと聞いている。そんな環境のなか作り上げた戦力でリーグを制覇した、と。
当時の強さを知るメンバーの多くが現在、指導者として在籍している。にも関わらず、異なる方針でチーム作りに励んでいるのは、現代で勝つための術を考え、学び、模索しているからではないだろうか。「俺たちはこうだった」と踏襲するのも一つの手だが、十数年前と同じ方針がマッチするとは限らない。
秋季キャンプ中、その考え方を表すような言葉が浜中打撃コーチから聞かれたので、紹介する。
「バッティングコーチとしては、“もうちょっと振らせた方が良いんじゃないか”と思うこともありますよ。でも、選手はそれぞれ考えてやってるし、そこは選手を信じてね」
選手の力を最大限引き出すのが指導者の役割。年齢が一回り、二回りも下の選手が戦力である以上、彼らが根本的に持つ考えを理解した上で、指導しなければならない。成功体験をそのまま伝えたい気持ちをグッと抑え、現代に適応する。そんな思いが感じられるコメントだった。
では、現役選手が根本的に持っている考え方とは何なのか? 私の持論を一言でまとめると『情報』だ。インターネット、スマートフォンの普及により、その気になれば、誰でも、いつでも、どこでも一流の情報に触れられる時代になった。多くの選手はアマチュア時代から、プロ野球の第一線で活躍する選手の練習法やトレーニング理論、考え方を知ることができるから、自分なりの考えを持った状態でプロに入ってくる。そして、入団後は、実際に肌で感じたことをプレーに落とし込んでいく。つまり、自分で考えて答えを探す癖が身についている。
その時代の流れと矢野政権の自主性を重んじる方針が、マッチするのではないか、と思っている。日本を代表するような選手がいない現チームでは、皆が自分で考えて試行錯誤を繰り返し、自分なりの答えを見つけてシーズンへの準備を進めている。一方の指導者も、経験だけでなく、新たに学び、考え、議論し、導き出した方法で選手と接している。自発的に指導するというよりは、思い悩んだ選手から相談されて初めて指導者が口を開く。そんなシーンが、昨秋キャンプだけで何度も見られた。
この方針が正解か否かはこの先数年のチームの順位が教えてくれる。しかし、選手と指導者の思いが重なることで生まれる一体感は、たしかにある。そして、その一体感が、想像以上の力を生み出すのではないか、と私は予想している。
巻木周平(スポーツニッポン)
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