もうすぐ平成が終わる。このエッセイを含めて、世の中には平成を総括する企画が溢れている。僕も『平成くん、さようなら』という小説を書いた。

 しかし平成を語るのはとても難しい。一つ前の昭和ほど社会が劇的に変わったわけではないからだ。何せ昭和には、300万人以上が命を落とす戦争があった。しかも敗戦によって国名や憲法までが変わり、多くの領土を手放すという大事件が起こったのだ。一方の平成は、災害やテロはあったものの、昭和に比べてはるかに平和な時代だったと言える。

©時事通信社

平成は「日本が貧乏になった時代」

 だから平成は、語り方によって、全く姿が変わる。たとえば経済に目を向ければ、「日本が貧乏になった時代」と言える。

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 1989年にはアメリカに次いで世界2位だったGDP(国内総生産)は、中国に抜かれて3位になった。一人当たりGDPにいたっては、4位から25位(2017年)にまで下がっている。平成に入ってから日本は、ほとんど経済成長が止まったままだ。

 結果、日本の経済的影響力はぐっと下がった。世界時価総額ランキングを見ると、1989年にはトップ30に日本企業が何と21社も入っていた。1位からNTT、日本興業銀行、住友銀行と、ほとんど日本の会社である。

 一方、2018年のランキングでは、トップ30に日本企業が一社も入っていない。上位は、アップル、アマゾン、アリババなどのアメリカや中国のIT企業ばかりだ。日本企業が時価総額を落としたというよりも、世界の成長に日本だけが追いつけなかったのである(『週刊ダイヤモンド』2018年8月25日号)。

安室奈美恵 ©getty

 しかし文化に目を向ければ、決して悪い時代ではなかった。『ONE PIECE』や『名探偵コナン』といったヒット漫画が多数生まれ、安室奈美恵、宇多田ヒカル、浜崎あゆみといった多くの歌姫、Mr.Children、ONE OK ROCK、RADWIMPSといったヒットバンドが平成に誕生している。

1kg近くあった携帯電話

 そして何より、携帯電話とインターネットが普及したのも平成だ。1989年の携帯電話普及率はわずか0.3%だった。しかも当時の携帯電話は、1㎏近い重さがあったのに機能は通話だけ、連続通話時間は約1時間という短さだった。

 このように、平成はどこを切り取るかで、良い時代にも悪い時代にもなる。そういう時は、目線をぐっと下げてみるに限る。