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2019/02/12

 そして3つ目の理由が、鳥取県がアジア中心の客層から欧米からの観光客も取り込もうと展開している「一大作戦」だ。県では「元気づくり総本部広報課」という、明石市の職員とは違ってなんだか元気のよさそうな職員がいそうな部署が県のPR動画を作成した。

 2017年8月12日にお目見えした第1弾は県の中部の紹介だ。案内役の日本人と思われる女性が、堪能な英語で案内。森の中でのランチ風景を皮切りに浦富海岸でのクリアカヌー、砂丘でパラグライダーに挑戦、県の名産、梨狩りに興じ、あっと驚く砂の像が収容された砂の美術館を見学、和紙すきを体験して三朝温泉でまったりするというストーリー。なんと12分を超える長旅レポートだ。この動画をYouTubeで配信。今年の2月段階ですでに28万回も視聴されている。英語で視聴する日本人も少ないだろうからおそらくかなり多くの外国人がこの動画を見ているはずだ。

 動画配信はこれだけでは終わらない。間髪入れずに第2回を8月25日に配信。この回では中部から西部をテーマに白壁土蔵群、三佛寺投入堂参拝登山、皆生温泉などジャパンを存分に意識させる設えの数々、そしてアクティビティ大好きな欧米人を意識した大山でのダウンヒルサイクリングなどを紹介している。

 続けて翌年3月の第3回では大山での雪上ランチとスノーボード、とっとり花回廊のイルミネーション、名物のカニ料理、温泉、世界で激増中の日本酒ファン向けの酒蔵巡り、和傘張りや藍染め体験などてんこ盛りである。

 鳥取県では隣の島根県とも組んで一般社団法人山陰インバウンド機構をつくり、訪日外国人客と国際交流をしたい日本人をつなげるガイドマッチングサービス会社であるHuber社と提携し、山陰エリアの魅力を紹介するグローバルWEBサイトやPR動画の制作も始めている。

 まだまだ割合は少ない欧米人を誘致するにあたって彼らが好むツボを良く押さえた広報体制、戦略である。日本人がステレオタイプで考える良い景色、美味しい食事、温かい温泉だけでなく、欧米人が好むアクティビティやエキサイティングな体験、彼らが知らない文化や歴史、風俗などを余すことなく企画、紹介している。

 その成果もあってだろうか。昨年にはアメリカの有名司会者でコメディアンのコナン・オブライエン氏が、自身の冠番組「CONAN」で鳥取県北栄町を訪れてSNSで話題になった。

「Googleで“コナン”って検索すると、すべての国で僕が最初に出てくるんですよね。そうあるべきでしょ。でもひとつだけそうじゃない国があるんですよ…日本です」。コナン氏は、「名探偵コナン」への対抗心をむき出しにして、ユーモアたっぷりに北栄町を紹介。町長もSNSを活用してそのユーモアに応え、番組を盛り上げた。日本では知られていない鳥取県の小さな町が、全米に知られるきっかけになったのだ。

「おもてなし」の言葉でごまかさないインバウンド政策

 とかく地方創生を考える場合、日本人が感じる「良さ」ばかりを金科玉条のようにとりあげ、「おもてなし」という超曖昧なサービス単語でごまかそうとするインバウンド政策が多い中、鳥取県の取り組みはしっかりと顧客対象を定め、マーケティングをしている痕跡がありとあらゆるところに垣間見える。

 ここには東京や、大阪のおこぼれを頂戴しようなどという野暮な発想もない。

「鳥取にはスタバはないけどスナバがある」あの平井知事が宣った自虐ネタの奥には実は並々ならぬ地方創生への決意があったのだ。

 PR動画を見ていると日本人である私までなんだか鳥取に行ってみたくなるから不思議だ。そうだ、砂丘に行って「すげえ」と言うだけでなくパラグライダーに挑戦してみればよいのだ。浦富海岸のクリアカヌーは楽しそうだ。ちょっと怖いけど大山ダウンヒルサイクリングも挑戦したいな。

 国内の不人気なんか関係ねえ。今、鳥取県がクールだ。

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