いい人なのに、口から血が垂れている
――意外にいろいろとポリシーがあるんですね。
話してみるとけっこうありますね(笑)。ライターはけっこう気をつかってると思いますよ。「林が嫌がるんじゃないかな」とか。記事ごとのPVと文字数も、全員に出すメールで伝えてます。週ごとに、掲載順ですべてのPVを伝えるんです。
――週刊マンガの人気投票みたいですね。
でもメールの書き出しは「ポケモンを買いました」みたいなゆるい感じにしてます(笑)。そうしないとキツいかなと。そこしか読んでない人もいるみたいですけど、やっぱりPVは気にしていますね。そこに文字数もあれば「お前長すぎるぞ!」とやんわり伝わるかなと思ったんですけど、それは伝わらないんですよね。
――最近のヒット作は?
すごく評判よかったのは大山顕さんの「チェルノブイリは『ふつう』だった」 です。実際にすごくいいし、よく読まれてもいるので俺があえて褒めなくてもいいかな(笑)。「ガスター10の文字が飛び出す服を作る」 は僕は面白かったですね。
――あの文字を再現したいって、どういうきっかけで思うんですかね(笑)。
「これで僕も西村雅彦の仲間入りである」という一文、完全に頭おかしくて好きですね。作ってしまうだけじゃなくて、西村雅彦に仲間入りまでしてしまうところがいい。これはやっていることと表現がぴったりしていると思います。
「トリビアの泉で紹介された『ツムギアリ』は本当にレモン味なのか」 もいいですね。冒頭から「たしかにアリという虫はちょっとすっぱい」。「たしかに」って言われても、知らんわ(笑)。ほんの一文なんですけど、こういうの好きなんですよね。ただ、こういうのって今どきは文中でツッコミも入れちゃうんでしょうね。そのほうがわかりやすいのかなってちょっと悩んでます。
――テレビならセリフをテロップにして、「たしかに」を大きく赤字にしたりしそうですね。
そうなんですよね。そこがデイリーの弱点ではないかなってちょっと思うんですよね。なんか、うまい方法がないのかなって。それで、チマチマと「よりぬきデイリーポータルZ」 というコーナーを更新してて、おもしろいと思った写真や表現を抜き出して掲載しているんです。たとえばこれは僕の記事ですけど。
いい人なのに、口から血が垂れている。この記事で一番言いたかったことってこれかも知れない。
――「南阿蘇村に向かう途中でも仮設住宅を見かけたのだが、『おんなじ形だから酔っぱらって帰ってくるとどれがうちかわからない』と地元の人が言っていた」と地震の爪痕もかいま見えるなかで、いつものデイリー的な世界が展開されていると、妙にグッとくるものがありますね。ほかの記事でも、思わず感動を誘ってしまうことがありますよね。
ありますね、たまに。そこは出すほうとしても感動コンテンツなんだろうなと思って出しています。でもなるべくはナンセンスな、穏やかな笑顔なのに口から血が流れる方向で行きたいんです。
――けっこうリテラシーが問われるおかしさでもありますね。おもしろネタを集めたサイトの多くはネットだけで完結した世界に見えるんですけど、デイリーの読者は活字も読んでいそうなイメージがあります。
そうですね。反響を見ていても、字を読む習慣がある人たちなんだろうなって思います。スマホに切り替わってから、ますます長文記事が読まれるようになった気がしますね。iモードの時代が一番つらくて、字は読みにくいしどこも改行ばっかりだし、早く終わんないかなって思ってました(笑)。