「日本のクライアントの信頼が得られにくくなる」
こうした課題に対してデロイトはどう対応しているのか。
まず、日本の国家機密の類に属するような情報の管理がしっかりできるのか、という筆者の質問に対してデロイトトーマツ合同会社の広報はこう説明した。
「各国・各地域でのあらゆる情報の取り扱いと管理に関して、デロイトが定める顧客情報とデータ保護についてのグローバルポリシーが厳格に遵守されています。デロイトAP設立後も、これらに関しては一切変更ありません」
次に、デロイトAP設立によって、日本の国家に関する重要情報が他国に漏れるリスクはないかとの質問に対して、広報は「現在日本において本格的なセキュリティ・クリアランスの制度が存在していないことから採用予定者等に関してスクリーニング調査は行っていません。各種人事交流がデロイトAP内で加速することがあったとしても、各メンバーファームは勿論、そこに所属する個人も、それぞれ守秘義務を負っており、業務上知り得た秘密情報を許可なく他に漏らすことはありません」と説明した。
しかし、日本のデロイト社員らから「デロイトAP設立後、ただですら日本の声が通りにくくなっているのに、この体制ではサイバーセキュリティなど日本の国家戦略に直結するサービスを提供する会社として、日本のクライアントの信頼が得られにくくなる」との声が出始め、危機感が強まっている。
世界では国家機密の管理を強化する動き
中国の大手通信機メーカー、ファーウェイ首脳がカナダで逮捕され、米国が身柄引き渡しを求めた事件に象徴される「米中ハイテク摩擦」を受けて、世界では国家機密の管理を強化する動きが強まっている。
米国は2018年8月、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化し、海外から米国への投資や不動産取引などを厳重にチェックする法案を成立させた。これは、明らかに安全保障上の観点から、中国資本が米国に入り込み、技術情報などを取得することに歯止めをかけようとする動きだ。さらに「国防権限法2019」の中に、中国のファーウェイや監視カメラ企業など5社からの政府調達を禁止することを盛り込んだ。
ファーウェイ製品には「バックドア」という技術が仕込まれ、重要情報が吸い取られる可能性があると指摘され始め、すでに日本政府も米国に同調して政府調達からファーウェイなどの中国製品を排除する動きを見せている。
米国は、軍事に転用される自動車関連のハイテク技術が中国に漏れることを恐れている。同じく国防権限法によって、自動運転や燃料電池に関する技術が中国へ流出することを防ぐ動きも加速させている。FBIは2017年7月、中国の自動車メーカーに転職するために出国しようとしたアップルの元社員を、企業秘密を盗んだ疑いで逮捕したのに続いて、今年1月にも中国籍のアップル元社員が自動運転技術を盗んだとして逮捕した。