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最大手会計事務所「デロイトトーマツ」の国家機密情報が中国に狙われる

日本はスパイを防げるのか

2019/02/08
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中国人は、国が命じれば海外でも諜報活動の義務

 特に中国政府が2017年6月、「国家情報法」を制定したことで、日本の政府や企業にも対策が求められる時代になっている。この法律には、中国国民に対する義務規定として、「いかなる組織及び個人も国の情報活動に協力する義務を有する」などとする内容が盛り込まれている。中国人は、国が命じれば海外でも諜報活動をしなければならなくなったと受け取ることができる。同法に反すれば帰国後に拘束される可能性すらある。

 こうした状況の中、国家機密に近い情報を取り扱う日本のコンサルティング法人がデロイトAPの下で、中国法人と同じ括りにされることに危機感を覚える日本人社員が増えているのだ。

デロイトは、防衛や中央省庁からの事業も数多く請け負っている(デロイトトーマツHPより)

 実際、日本のデロイトは、防衛省の次期戦闘機開発や内閣官房のサイバーセキュリティ対策、経産省・総務省のデジタル化推進戦略に深くかかわっており、国家機密に近い情報を知りうる立場にある。加えて、コンサルティング法人は日本でもっとも「自動車分野」が強いと業界では言われており、社員を複数の自動車メーカーに出向させ、最新の技術動向に触れやすい立場にある。

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 自動運転やコネクテッドカー(つながるクルマ)などの最新技術は、軍事に転用されやすいことから、スパイからは狙われやすい。また、自動車に搭載する小型燃料電池の技術は、ドローンに応用すれば「偵察機」としての機能を飛躍的に向上させることができるため、情報漏えいにはとりわけ注意しなければならない、とされる。

その女性は中国共産党内でそれなりの地位にいる

 早速、デロイトAP設立による「強い縛り」の負の側面が出始めている。ある関係者によると、デロイトAPで全産業向けのサービス戦略を指揮するリーダーに中国人女性、蒋穎(英語名:Vivian Jiang)が就任。蒋穎は中国の国会に相当する「全国人民代表大会(全人代)」幹部で、父親は上海市の幹部であるという。彼女が中国共産党内でそれなりの地位にいることはほぼ間違いないと見られる。

筆者が入手したデロイトAPの組織図。Clients & Industries(クライアントと全産業)担当のリーダーにVivian Jiangの名前がある
デロイト中国のホームページでは、蒋穎が中国人民政治協商会議に出席する様子が誇らしげに報告されている

 デロイトでの昇進は今後、日本のリーダー→アジアのリーダー→グローバルのリーダーといった順番になるという。

 デロイトのある法人の役員がこう指摘する。

「今後、より一層アジアパシフィックでの連携が強まっていくだろう。その場合、日本のデロイトの役員は、デロイトAPの中国人の女性リーダーによる人事評価を気にせざるを得ない。情報共有を迫られた場合に断ることは難しいだろう」

 仮に断ったとしても、日本のデロイト内では多くの中国人社員が働いており、採用段階でセキュリティ・クリアランスの対応をしていないため、中国共産党に近い社員が潜り込んでいる可能性もあるという。

 日本ではまだなじみの薄い「セキュリティ・クリアランス」の概念について解説しよう。セキュリティ・クリアランスとは、端的にいえば、「機密を扱う適格性があるか否か」を確認する行為だ。犯罪歴、家族構成、借金の有無、交友関係などを調べ、他国のスパイやスパイ行為をする可能性がある人物を、政府や民間企業などにおいて機密性の高い仕事から排除するための確認である。

 日本は、米国などと違ってこのセキュリティ・クリアランスの手法が確立されておらず、確認行為が甘いのが実情だ。その象徴の一つに、「幹部自衛官の妻に中国人が多い」(防衛省OB)ことなどが挙げられるだろう。