日本は「スパイ」には敏感ではないが……
いずれ、同盟国日本にも自動車関連技術を含めたハイテク技術の中国への漏えいを厳しくチェックするように求めてくるだろう。そうなれば、日本の企業や組織で働く外国人社員のセキュリティ・クリアランスの強化に動かざるを得なくなる。
また、セキュリティ・クリアランスは、こうした機密情報を扱うポストだけに必要なものではない。世界ではいま「フードテロ防止」にも注目が集まっている。フードテロとは、農産物などの食品に毒物などを入れて不特定多数を狙ったテロ行為のことだ。こうしたことを防ぐための最低限の防御策として、世界では農作業従事者の経歴を確認して採用するといったようなことが当たり前になりつつある。しかし、日本の農家で外国人を受け入れる場合、経歴をチェックして受け入れているところが果たしてどれくらいあるだろうか。
日本ではセキュリティ・クリアランスを強化しようとする機運は高まっていない。国民気質的にも「スパイ」には敏感ではないし、こうした議論を持ちかけると、公安警察の強化を推奨しているように大げさに取る向きさえある。防御策を講じることが犯罪行為の抑止力向上につながる面もあるのだ。
日本は個人情報保護を盾に「個人情報をいかに守るか」ばかりに視点がいき、個人情報を得て公益のためにどう活用するのかといった視点に欠けているように感じる。敢えて言うならば、大切な個人情報を、重大な責任を持ってどう活用するのかという発想がないから、安易に個人情報が漏えいしてしまうトラブルが起こるのではないか。
それ相応のリスク管理が必要だ
今後、入管法の改正や人口減少による人手不足によって、外国人労働者は増えるだろう。特に、外国人が国益に関するような重要情報を扱うポストや、ハイテク関連の技術情報を扱うポストに就く場合、最低でもその人物の家族構成、犯罪歴、借金の有無、政治信条、交友関係くらいは合理的に調べられる体制を構築する時期に来ているのではないだろうか。政府や企業もそれを真剣に検討すべきだ。
断っておくが、筆者は外国人労働者を受け入れにくくしろ、と言っているわけではない。言いたいことは、受け入れるのであれば、それ相応のリスク管理が必要だということだ。加えて、セキュリティ・クリアランスは、外国人だけに必要なものではなく、機密情報を扱う仕事に就く場合には国籍を問わず求められる時代になったということである。
デロイトでいま起こっていることは、特殊な問題ではない。単に一企業、業界の問題にとどまらず、多くの日本企業や公的機関にとって喫緊の課題となるだろう。