いや、分かってます。「萬平」の「まん」と「福子」の「ふく」で『まんぷく』。ふたりが協力して誰もが手軽に食べられるインスタントラーメンを生み出し流通させる話だってことは。ん、協力? ……確かに福子は全力で萬平をサポートしているけれど、萬平が福子や子どものためになにかをしている気配はない。彼が向いているのは自分の研究と世の中の人たちの方で、一番近くにいる家族じゃない。
出会ってはいけないふたりが出会ってしまった
ここでちょっと違う角度からも考えてみましょう。『まんぷく』の脚本を担当しているのは福田靖氏。『HERO』、『ガリレオ』シリーズ、『DOCTORS~最強の名医~』、大河ドラマ『龍馬伝』など、さまざまな作品を手がけてきたヒットメーカーです。
このラインナップから、福田氏の筆が特に冴えるのは「変人だけど天才」を描く時だと推察できないでしょうか。『HERO』の久利生公平(木村拓哉)も、『ガリレオ』の湯川学(福山雅治)も、『DOCTORS』の相良浩介(沢村一樹)もみんな変人で天才。
そして萬平役の長谷川博己は、「枠からはみ出た人物」を演じると、より輝きを増す技巧派タイプの俳優。『デート』の高等遊民・谷口巧、『MOZU』のチャオこと東和夫、『獄門島』の金田一耕助、『シン・ゴジラ』の矢口蘭堂etc……。
『まんぷく』では、出会ってはいけないふたりが出会ってしまったのです。「変人だけど天才」の造形を得意とする脚本家と「枠からはみ出た人物」の構築に定評がある俳優。こうなると主役であるはずの「夫を支える妻」=福子の存在がいまひとつ生きてこないのは必然という気もします。
100%「夫」ありき、という設定
さらに掘ると、神部(瀬戸康史)や世良(桐谷健太)、真一(大谷亮平)と忠彦(要潤)をはじめ、男性サブキャラ陣が非常に魅力的に描かれているのに対し、女性キャラクターはパワーワード「私は武士の娘です」を操る鈴(松坂慶子)を除いてどうにも単色。
福子の姉・克子(松下奈緒)は忠彦の絵のモデルにただやきもきするばかりの生活だし、その娘・タカ(岸井ゆきの)は大阪帝大を卒業後、家事手伝いからの専業主婦で夫にしか目が行っていない。一見、自立しているようにも見えるパーラー白薔薇のママ(牧瀬里穂)でさえ、「私は厨房にいるこの人(夫)を一日中見張っているから」と当たり前のように語ってしまう。福子を筆頭に、女性キャラのほとんどが100%「夫」ありき、100%「夫」メインの毎日を過ごすという設定。時代といえば時代なのかもしれませんが……なんだろう、かなりモヤる。このモヤモヤは壇蜜演じる秀子のぶっ飛んだマンボくらいじゃ収まりません。