東日本大震災の原発事故によって福島県双葉町を追われた横山久勝さんは、故郷に伝わる「双葉盆唄」の太鼓奏者。中江裕司監督のドキュメンタリー映画『盆唄』はその横山さんをカメラの中心に据えて、2015年より撮影された。

中江裕司監督 ©2018テレコムスタッフ

「福島をネタに何か撮ろうという気持ちが僕にはありませんでした。でも横山さんとお会いして、理屈ではない魅力、ひとつには誠実な人柄に惹かれました。太鼓を打ちたい、でもいまの住まいで音は出せない。自分は外から来たという意識が、何かをすれば他の避難者にも迷惑をかけてしまうと心に蓋をしているように見えたんです。でも僕は彼の太鼓を見たいと思いました」

 避難生活は「双葉盆唄」の存続を危ういものにしていた。

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 カメラはそこから、100年以上「フクシマオンド」を伝えてきた異国の島へと飛ぶ。

「写真家の岩根愛さんの導きで、ハワイ日系移民の方々が根付かせた盆踊り(ボンダンス)を目の当たりにしました。人は移住するとき、故郷の唄を携えて新たな土地に根を下ろすのです。この事実は、未来であり希望と言えないでしょうか」

 亡くなった人、生まれくる子、そしてまだ見ぬ誰かと櫓の下に集う。盆唄が繋ぐその営みを本作は焼き付けた。

INFORMATION

『盆唄』
2月15日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
http://www.bitters.co.jp/bon-uta/