1ページ目から読む
3/3ページ目

長野の年俸2億2千万円という額は決して高くない

 2007年のクライマックス・シリーズ(CS)の開始も大きい。日本野球機構が収益を分配する日本シリーズと違い、CSは開催球団に興行の権利がある。昨季まで3年続けてファイナルステージを主催した広島は、それだけで相当な収益を手にしたはずだ。

 放送権料事情の変化もある。ホーム戦を網羅する地元の複数のテレビ局に加え、現在はインターネット配信やCS放送がある。広島は2016年にネット配信のDAZNと契約した。プロ野球界ではDeNAと並んでもっとも早かった。Jリーグと10年間2100億円の巨額契約を結んだDAZNとは、現在巨人を除く11球団が契約している。またCS放送は開始当初、タダ当然と軽く見られていたが、ケーブルテレビの普及で価値は上がっているはずだ。

 時代の変化に合わせて地歩を固めてきた広島にとって、長野の年俸2億2千万円という額は決して高くない。

ADVERTISEMENT

巨人が過ちを犯したとしたら

 長野、内海とも昨季のプレーで依然として戦力になることは示した。一方で長野は初めて規定打席に届かず、内海は開幕を2軍で迎えた。今季はさらに出番が減ることが予想された。両選手は巨人を離れることで、出場機会を増やすチャンスを得た。これは喜ばしいことであり、球界とファンにとって、巨人が下した判断は悪いことではない。

ヤンキース時代の松井秀喜氏 ©共同通信社

 巨人が過ちを犯したとしたら、2人をプロテクト枠から外したことでなく、球団幹部が移籍をネガティブに語ったことではないか。内海の西武移籍に際して巨人の石井一夫球団社長は「移籍は大変残念でなりません」とコメントし、長野の広島行きが決まった時は「断腸の思い」という言葉を使った。大塚淳弘副代表は長野について「まさかベテランを取るとは。ショック」と話し、「申し訳ないと謝った」と明かした。

 これらの談話を目にしたファンが「だったら、プロテクトしておけよ」と怒るのは当然だ。プロテクトしなかった以上、移籍の可能性はある。2人の移籍は、西武や広島の選択であると同時に、巨人の決断でもある。選手を思っての言葉だろうが、自ら下した決断を悔いるかのような談話は後味の悪さを残す。送り出す側は、功績をたたえ、健闘を祈るしかないのだ。

 松井秀喜氏がヤンキース時代の2009年に語ったことがある。4年契約の最終年で再契約が難しいと報道されていた6月、ヤンキースタジアムへ向かう車の中だった。「残れても残れなくてもいい。選手はそうやって野球を続けていくんだ」と感情の揺らぎを見せず話した。チームへの思いとプロとして直面する現実との違いは、選手が一番分かっている。