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「やりきった。ちゃんと悔いなく」安室奈美恵さんが私の前で語った“引き際”の美学

NHK「平成史スクープドキュメント」で総括した25年間の歩み

2019/02/21

30曲も歌って踊り続けて観客を熱狂させる

 目の前の観客との生身のやりとりを最大化するようなコンサートを追い求め続けた結果、安室さんがたどり着いたスタイルは、ノンストップで3時間近くにわたり、30曲も歌って踊り続けて観客を熱狂させる、全力投球のコンサートだった。そんなステージを、1年に60公演、ときに100公演という、桁外れの規模で展開。平成生まれの若いファンも獲得していった安室さんは、コンサート動員数の新記録を更新、引退コンサートを収録した映像作品でも、音楽史上誰もなしえなかった販売数を達成し、再び平成の歌姫に返り咲いた。

 平成の後半は、スマートフォンなどで音楽も映像も簡単に手に入る時代。その反動のように、現場でしか味わえない生の音楽体験が求められ、コンサート人気が急増していた。安室さんが歩んだコンサートという道は、平成音楽の新たな潮流でもあったのだ。

2018年5月、ツアーのため訪れた台北の空港でファンに歓迎される ©getty

インタビューしながら心に染みた「覚悟」と「謙虚さ」

 安室さんが平成に残した足跡からは大切なメッセージが読み取れる。周囲に流されず自分の原点・強みに立ち返り、徹底的にこだわり抜く「覚悟」。同時に、安住せずに挑戦に身をさらしつつも世の反応に学び修正していく「謙虚さ」。音楽分野に限らず、あらゆるクリエイティブなモノづくりの現場において、荒波を生き抜き新しい創作を生みだすための重要な鍵を示しているように思え、インタビューしながら心に染みた。

 コンサートで自らを酷使し続けながら観客と向き合ってきた安室さんにとって、引退へと最後に背中を押したもの。「皆さんの中にいい状態の安室奈美恵を思い出として残してほしいなって」と切り出し明らかにしたのは、7年前に歌手の生命線とも言える声帯を壊していた、衝撃の事実だった。安室さんはこれまで、そのことを言い訳にすることなく長年走り抜き、そして今この時に、自ら幕引きを決めた。大好きでたまらない“音楽への敬意”のようなものを、感じた。

 インタビューの終わりに、「歌手・安室奈美恵」は目指す理想に到達したのかたずねると、どうなんでしょうねと微笑みを浮かべながら、こう教えてくれた。

「理想の、歌って踊ってかっこいい歌手になりたいと思ってデビューして、引退する時にきちんとそういう歌手になれたかどうかは、皆さんの判断ですね。でも、それに向けて一生懸命、毎日過ごしてきたので、やりきったっていうのはありますね。ちゃんと悔いなく」

 そう言い切った安室さんの表情は、穏やかな達成感に満ちているように見えた。