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「SNSは一切禁止」の部屋も

 相撲協会が公式に発信するSNSの功罪はさておき、若い力士たちのSNS利用については、角界でも新たな懸念材料となっている。協会は、SNSの取り扱い方に注意喚起をしている最中でもあるのだが、SNS上のやりとりでファンとの諍いを呼んだり、稀勢の里の言うところの“ちゃらちゃらした”動画をアップしたりと、目に余る例も見受けられたことによるものだ。

 SNS上で知り合った女性ファンとのトラブルも心配され、若い弟子たちを預かる師匠たちの頭を悩ませてもいる。各部屋の師匠の方針もあり、「SNSは一切禁止」「幕下以下の力士に限って禁止」など、部屋によってその指導は多様だが、昨今ではアルバイト店員による悪ふざけ動画が社会問題にもなり、10代、20代の力士が大半の相撲界では、早急にSNS講習会などで啓蒙する必要性もあるだろう。

©文藝春秋

「好きな音楽は?」に稀勢の里は

 さて、稀勢の里に話を戻そう。

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 昭和の横綱だった先代師匠、隆の里(鳴戸親方)の厳しい指導と薫陶を受け、15歳からその“イズム”を徹底的に叩き込まれたのが稀勢の里である。かつて、大関時代のインタビューで、ゆかたについてこう語っていたことがある。

「僕は、『自分の四股名の入ったゆかたを自分で着るのは粋じゃない』と先代師匠から教わりました。ゆかた地(反物)は、相撲界でお中元代わりに贈るもので、人に着てもらうことに意味がある。最近はその風習も薄れてきていて、どこか先輩たちが築き上げた伝統が、崩れかけているところもあると思います(中略)せめて自分だけでも、周りの若い衆に伝えてあげたい。特に説明せずとも、自分の体で表現して、伝統文化を受け継いでいきたいと思っています」

©文藝春秋

 他人のゆかた地を下着に仕立てるのは失礼、すぐに泥着(稽古着)にするのも失礼だ――ゆかたひとつで、このこだわりと矜恃を持ち、雄弁なのが稀勢の里なのだ。そして、この当時――5大関が並び立っていたのだが――5人に同じ質問をしたことがある。「好きな音楽はなんですか?」の問いに、琴奨菊は「ET-KING」、琴欧州(当時)は「EXILE」などと、若者らしく流行りのグループ名を挙げるなか、稀勢の里の答えは「浪曲」。思わず、「え? 浪曲? あの広沢虎造とかの……あの浪曲?」と聞き返したものだった。

「そうです。初めて聴いた時は感動しましたよ。浪曲には相撲を題材にしたものもいろいろありましてねーー」

 浪曲の魅力について、滔々と語ってくれたものだった。今回の稀勢の里の「力士にSNSはいらない」発言に、私は「まったくもって稀勢の里らしい」と、心の底から納得できる。なにせ、好きな音楽が「浪曲」だというのだから。そして彼の相撲人生そのものが、まるで「浪曲」のようなものなのだから。