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「ありがとう。助かったよ」

 リネン類や時計などはまだ序の口だ。

 少し昔のことだが、ある朝、ホテルのフロントに宿泊のお客様から電話があった。かなり大きな荷物があるので台車で部屋から運ぶのを手伝ってくれないかとの要望だ。そこでホテルスタッフが倉庫から台車をとりだして部屋に伺うと、段ボールに入った大きな荷物が鎮座している。これは大変でしょう、ということで一緒にウンウンいいながら台車に積み、車までお運びした。ホテルスタッフはお客様に寄り添いお役にたつ。お客様からは「ありがとう。助かったよ」のお言葉。ホテルスタッフが自分の仕事に一番の喜びを感じる瞬間だ。そして笑顔でのお見送り。

 ところが、部屋の清掃係から思わぬ報告があった。なんと部屋にあったテレビがない!

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“お客様”が運び出したのは客室内にあった大型のテレビだったのだ。当時はブラウン管仕様のテレビだったから重量もあり、ひとりで運ぶのには難儀だったのだろう。その作業をホテルスタッフに命じて運び出す、とんだ猛者がいたものだ。

 テレビは最近では液晶テレビが主体になった。従来のブラウン管テレビよりもはるかに軽くて薄い。これはもっと危険。多くのホテルが対策として、テレビ配線はワイヤーにする、テレビ台座に固定するなどして盗難防止に努めている。

支配人から耳を疑うような報告が…

 テレビは特殊な例かもしれないが、実は利用者が帰ったあとのホテルでは多くのものが紛失している。

 京都にあるホテルの大浴場のリニューアルを行った時の話。最近はホテル内に大浴場を設けて、宿泊客に1日の疲れをとっていただこうというホテルが増えている。その大浴場のリニューアルにあたって、入浴後にマッサージチェアなどで寛げるスペースを設置することになった。

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 京都の雰囲気にあわせて和風モダンな設えとし、箱庭を設け、薄明かりの中、それぞれのスクリーンで仕切られたスペースにマッサージチェアを設え、女性の方でも浴衣姿を気にすることなく、マッサージを楽しめるリラクゼーションスペースとしたのだ。

 また、京都に宿泊する利用者はビジネスホテルであっても観光目的の方が多いので、大きめのテーブルと椅子、それに雑誌などが飾れるマガジンラックを設け、京都の写真集や旅関連のガイド、京料理の書籍などを備えていつでも自由に閲覧ができるようにした。さらにラックの上にはおしゃれなスタンドと京都らしく短く切りそろえた若竹を小洒落た花瓶に挿してあしらった。

 もともと人気があった大浴場にリラクゼーションスペースが誕生し、狙い通りお客様には大好評。その反応にホテルスタッフの士気も高まった。

 ところがオープン1週間後、ホテルの支配人から耳を疑うような報告があった。