都心居住が鮮明になっている。

 今の働き世代は夫婦共働きがあたりまえだ。夫婦がそろって会社に通勤するわけだから、通勤時間は短いほうが良い。子供が生まれれば、保育園に夫婦のどちらかが送り迎えに行かなくてはならない。会社の近くでなければ生活そのものが成り立たない。だから都心のマンションを買う。

パワーカップルが陥りがちな「思考回路」

「マンションの値段は高いけれど大丈夫だ。共働きだから、夫婦でそれぞれ35年ローンを組めば何とか返済することは可能だ。僕たちはパワーカップル(それぞれが年収700万円以上の夫婦)なのだから都心部のマンションを購入できる。金利は低いし、税金のバックもあるらしい。マンションを借りるよりも所有したほうが資産にもなるのだから買っておこう」――。だいたいがこんな思考回路で都心マンションを買う。

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親が叶えられなかった都心居住

 平成初期までは、このシナリオは成り立たなかった。都心は土地がないし、住宅を買うためには郊外に行かなければ適当な住宅はなかった。現代の働き世代の親の世代は、母親が専業主婦の家が圧倒的に多かった。父親は多額の住宅ローンを背負って毎日途方もない時間をかけて都心にある会社に通い、家を守る母親は子供を塾だ、学校だ、お稽古事だと追いたてて、とにかく子供が「良い学校」を出て無事「大手の会社」に就職することだけを願い続けたのだった。

 幸いなことに、親たちには叶わなかった都心居住は、子供の代で可能となった。経済、産業構造の変化で都心部にあった多くの工場がアジアに移転し、土地の容積率も緩和された結果、タワマンと呼ばれる超高層マンションの建築が可能となったからだ。このマンションを買えば、親が経験したような長い通勤も短くてすむ。すべてが「会社」のために自らの居住地を会社の近くに設定する、ある意味合理的な選択の結果ともいえるのだ。

 リクルートが毎年発表する「住みたい街ランキング」で、上位10位がいずれも都心部のJRのターミナル駅が選択されている結果を見ても、今の働き世代がいかに「会社に通うための交通利便性」に重きを置いて家を買っているかがわかる。

7000万円支払っても2LDK

 しかし、彼らが好んで買う都心のマンションはいかほどのモノだろうか。不動産経済研究所の発表によれば、2017年度の東京都区部において供給された新築マンションの平均価格は7089万円とはじめて7000万円の大台を超えた。1平方メートルあたりにすれば108万円だ。つまり65.5平方メートルの住戸面積で7000万円を超える。65.5平方メートルといえば2LDKクラス。この狭いマンションでは夫婦と子供はせめて1人程度が暮らすのがやっとであろう。この部屋が将来にわたって資産価値を保ち続けると彼らは信じているのだろうか。

 そうまでして彼らは「会社ファースト」の人生選択を行っているが、その根底には会社には朝9時に出勤して午後5時になれば帰宅する、という昭和時代の「働き方」がある。しかし、その「前提」が大きく崩れようとしている。いま、人々の働き方は、何も政府が提唱する「働き方改革」を待つまでもなく、激変しつつあるのだ。