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2018/07/17

マンションを買うときに「思考停止」していないか

 さてこのように考えてくると、会社に通うために「会社の近くに住む」という都心居住の考え方は本当に正しいのだろうか。都心は交通利便性が高いといっても、所詮は自分たちの勤める会社との「行き来」のために便利であるというだけだ。とりわけ工場跡地に建設された多くのタワーマンションの立地は、従来は人々が暮らすのにはあまり「良い環境」にはなかった土地が多いのも事実だ。

 現代の働き世代は車を持たないという。車は使いたいときに使えばよい。車を買っても使うのは週末だけで、駐車場代を払って家のまえに「展示」をしているくらいなら買わないほうがよい。自転車だってシェアでかまわない。今や服だってメルカリで済ますのが彼らの考え方だ。

 ところが、マンションになると彼らのこの合理的な思考回路が機能停止に追い込まれるようだ。自分たちが「暮らす」のに本当に良い街はどこなのか。仕事のための移動がなくなれば、もっと全く異なる価値観で自らの家を選ぶ時代がくることになる。それは会社への交通利便性ではなく、人生のそれぞれのステージで自分の「好み」の街を選んで「利用する」、そんな家選びが始まることだろう。家も自動車や自転車あるいは服のように「しなやかに使いこなす」時代がもうすぐそこに迫っているのだ。

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不動産も「買ってなんぼ」から「使ってなんぼ」になる

 先述した私の知り合いの会社では、実はいっぷう変わった飲み会をしているそうだ。社員各々が好きな場所で自分の好きな飲み物とつまみを用意して、オンライン上で乾杯するのだ。それぞれの画面の背後には社員とじゃれ合う犬が登場したり、子供が横切ったりして参加者はその様子を見ながらおおいに盛り上がるのだそうだ。

 会社から「近い」というだけの理由で買った家のために、夫婦そろって35年にもわたって年収の3割くらいのお金をローンに注ぎ込むことの馬鹿馬鹿しさにやがて多くの人々が気づくことになる。不動産も自動車や自転車と同じく、「買ってなんぼ」から「使ってなんぼ」のものになるのだ。