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「お客様は自分の親だと思いなさい」

 自社配送は以前もやっていたが、手間がかかるので取りやめていた。だが若い社員たちによる戦略会議で復活、一部地域に限定して実施することになった。小野さんのトップダウンでなく、下からの提案というのが面白い。

「若いお客さんは安ければいいと思うでしょう。でもうちは高齢者のお客さんが多いので、より丁寧な説明が好まれるんです。社員にはお客様は自分の親だと思いなさい、と言ってます」

 バブル時代には、メーカーから盛んに「多店舗展開はしないんですか」と訊ねられた。その方が仕入れ量が増えてメーカーとして助かるからだ。だが仁助さんはずっと否定し続けた。小野さんは「屏風と商売は広げすぎると倒れるっていうし」と笑う。横に広げる代わりに客との付き合いを濃くすることで、親子3代が買い物に来てくれるお店になった。小野さん自身も固定客がついていて、新製品について説明しようとすると「あなたが勧めたものを買うよ」といってくれるという。

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裏口にはオノデンの歴史を感じさせる木看板が

 従来の固定客を大切にしてしっかりした土台があるからこそ、次の手も打てる。話を聞いていくと、オノデンは「何をするか」より「何をしないか」を大切にしてきたのだと分かる。

「売り場の広さ」にこだわらない理由

 現在、オノデンは地下を賃貸し、最上階の5階をMXテレビと協同で、アイドルのライブが行えるイベントスペースにしている。

 

「家電売り場は年配のお客さんが多いけれど、そこはこういう若い人たち(右手の拳を激しく上下させながら)がいっぱい来てくれるよ」

――……アイドルファンですか?

「そうそう。うちはアイドルファンとかゲーム好きのお客さんを取り込めてなかったから、毎日こういう人たち(また右手を上下に動かしながら)が来てくれるのは嬉しいですね」

 5階フロアのイベントスペースに案内してもらった。イベントの時間までまだ間があるので、ただの暗い広い空間が広がっているに過ぎない。

――あの恐れながらなんですが、ここでこういうことをするより、商品を並べて売り場にした方がよくないですか。

 私の少々失礼な質問に、小野さんがフロアの柱を撫でながらさらりと答えた。

「うちは売り場を削っても人を削らなければ、売り上げは落ちないんですよ」

 はい、出ました金言! なにかあると人減らししか能のない経営者に聞かせてやりたい!

 客も従業員も大切にする。そんな素朴な信念の会社が、次々と企業が入れ替わっていく秋葉原の駅前に前世紀から屹立している。痛快ではないか。

 

#2に続く)

写真=榎本麻美/文藝春秋

昭和の東京 12の貌 (文春新書)

 

文藝春秋

2019年1月18日 発売