平日の午前10時の秋葉原はさすがにまだ人通りは少ない。JR秋葉原駅前の交差点にたつ家電量販店「オノデン」にうかがうと、ハッピ姿の3代目社長、小野一志さんが「ようこそ」と出迎えてくれた。小野さんはこの日に限らず、ハッピ姿で自ら店頭に立って接客している。「社長ったって、他になんにもやることないもん」。会いに行けるアイドルならぬ、会いに行ける社長である。
秋葉原1店舗のみに絞った経営
小野さんに会うのは今回が初めてではない。一昨年、私は月刊「文藝春秋」の連載企画「50年後の『ずばり東京』」で、小野さんにインタビューした。それが「文春オンライン」に転載され、たくさんの反響をいただいた(ネット転載は終了、インタビューは文春新書『昭和の東京 12の貌』に収録されている)。
オノデンは他の家電量販店のように多店舗展開をしていない。秋葉原1店舗のみに絞った経営、店員ひとりひとりが「顧客」を持ち、担当を超えて自分のお客さんの買い物アドバイザーをこなす、事実上定年がなく、店員の最高齢が70歳である……。浮き沈み、生存競争が激しい家電量販店のなかで、秋葉原でも老舗に入るオノデンは生き残り、独特の存在感を放っている。
生き残った、といってもオノデンが利口に立ち回ったわけではない。むしろ環境が激変していくなかで愚直に信念を貫き通した結果なのである。2度目のインタビューになる今回、小野さんの「信念」とはなにか、紹介したい。
年末商戦で売れたもの
「うちみたいな小さな店に聞くことまだあんの?」
ハッピ姿のまま、小野さんは照れ笑いする。私がまず聞きたかったのは、年末年始の商戦について。「三種の神器」(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)や「3Cの神器」(カー、クーラー、カラーテレビ)など、かつて家電製品は世相を反映していた。今年は五輪直前で改元もある。そこで秋葉原の老舗家電量販店で最初に売れたのはなにか。
私の鼻息荒い問いに、小野さんが「うーん」と考えて苦笑いした。
「笑われちゃうかもしれないけどさあ、元日に売れたのは洗濯機なんだよね」
――えっ、元日から洗濯機を買いに来る人がいたんですか。
「そうなんだよね。私もびっくりしてスタッフに確認したら、それも1台じゃなくて複数台売れたんだよね。壊れて困った人とかいたんだろうねえ。秋葉原は店を開けとけば何かが売れる。有り難い街です」
小野さんが「笑われちゃうかも」というのは、オノデンはいまだに主力商品が「三種の神器」だからである。
元日の洗濯機の一方で、小野さんは昨年末から売れている家電製品が気になるという。
「ハンドルを回して充電する手回しラジオとか、カセットコンロとか、防災家電というのかな、電気が要らない家電製品がずっと売れて品薄状態が続いています。石油ストーブとか。去年、次から次へと災害が起きたでしょ。それに備える意識がお客さんに強いんだと思う」
未来への明るい展望より、不安が需要を喚起していた。