斎藤佑樹投手に9年目の季節がやってきた。「背水」という言葉がシーズン前の彼を表現するのに使われ始めたのはいつの頃からだっただろう。ファンが「今年こそ!」とシーズン前に彼に願いを送るようになったのは何年目からだっただろう。
昨夏の甲子園投手の投げ合いを見て
2月16日、あの日は日本全国のプロ野球ファン、高校野球ファンの注目がその場所に集まっていた。沖縄県北部にある国頭村。2軍のキャンプ地、かいぎんスタジアム国頭は海のすぐそばにある。1軍が長く使ってきた現在改修中の名護市営球場もネット裏は東シナ海。グラウンドから海が見えるシチュエーションとその青さを見ると北国の人は「遠くに来たな、沖縄に来たんだな」と実感する。道民にあの青は最初は眩しすぎる。
この紅白戦は毎年注目される。1軍の選手がアリゾナから帰国して、選手全員が揃う場でもあり、若手はまずはここを目指そうと練習に励む首脳陣へのアピールの場。この紅白戦を目指して多くのファンが駆け付けるので、キャンプ見学者はこの時期が一番多くなる。ただでさえ賑わう試合に、今年は「初回、昨夏の甲子園投手が投げ合う」というオプション付き、スタンドは午前中の早い時間に満席になってしまった。
先に投げたのは、金足農業出身・準優勝投手でドラフト1位の吉田輝星投手。彼が動く度に報道陣のスチールカメラのカシャカシャカシャカシャ……渇いたシャッター音が重なる、まるで何か羽のある生き物が近づいてくるよう……。ああ、この音は聞き覚えがある。私は吉田投手の背中の「18」を見ながら8年前を思い出していた。
マスコミ、ファン、そしてスタッフがごった返す。改修前の蔦のからまる歴史ある名護市営球場。時には戦々恐々とするこちら側をよそに「背番号18」の笑顔は実にさわやかだった。そこだけ違う空気が漂っているようだった。あまりにも異空間過ぎて「この人、現実に生きてる人なのかな」とふと頭で思った瞬間を今でも覚えている。フィーバーという言葉がぴったりのキャンプだった。
と、そんなことを頭に巡らせていたら目の前の吉田投手は大田泰示選手にホームランを打たれていた。「これがプロの世界だよ」、打球の鋭さと反比例して先輩からの優しい教えに思えた。その後に、制球が乱れたけれど、最後の鶴岡選手が思わず空振りしてしまったボールはアウトコース低めに決まって、吉田投手の未来が照らされたようだった。
その裏に投げた昨年夏の甲子園優勝・大阪桐蔭出身の柿木投手はうまくまとめていて余裕すら感じた。「完成された」という表現をする人もいるけど、まだ18歳、伸びしろは確実にある。楽しみが尽きない。二人はキャンプでは同部屋で仲も良く、ライバルでもあり、ここから先は一生続く同志になるんだろう。去年の甲子園の時には全く想像できなかった、今でもちょっと信じられないくらいの夢のドラフトを改めて感じた土曜の午後だった。