24歳の言葉には、何とも言えない実感がこもっていた。「2年前は、まだまだ僕の甘いところがあったので……」。苦い、いや苦すぎる記憶を噛みしめ、阪神タイガースの7年目・北條史也は、口元を引き締めていた。
「このキャンプで一番良いものを見せてくれた」
1カ月に渡るキャンプを打ち上げた2月27日。期間中、一番と言える晴天の下で矢野燿大監督は、MVPに北條の名を挙げた。「総合的に。練習に取り組む姿勢とかも。元気とか。結果も本当に素晴らしいものを見せてくれた。成長というか、このキャンプで一番良いものを見せてくれた」。実戦で打率・5割以上をマークした打撃成績よりも、強調したのは“熱気”“活気”“元気”。抽象的で見えないものでも、その背中から感じる“気”を確かに感じ取っての選出だった。
思い返せば、どん底にいた若虎と最も多くの時間を過ごしてきたのが、他ならぬ指揮官だ。昨年は2軍監督として、もがき苦しむ姿を間近に見てきた。開幕を2軍で迎えた北條をファームでは中軸で起用し続け「ホームランをバンバン打つんじゃなくて、広角に外野の間を抜いていく。1軍でジョーはそういうバッターになって生きていかないといけない」と中距離打者としての未来像へ導いた。
自分のスタイルを見つめ直し、6月に2度目の昇格を果たすとシーズン中盤からは2番に定着。本塁打は1本でも、62試合で77本の安打を積み重ねた。そんな矢先、9月14日のヤクルト戦で三遊間の打球に飛びついて左肩を亜脱臼。シーズンエンドの大きな故障だった。不本意な形で2軍に戻ってきてしまった北條に、矢野監督は「あれを飛び込まないお前より、飛び込むのが北條じゃないの」と励ました。今思えば“あいつは強くなって必ずはい上がってくる”と見越してかけた言葉だったかもしれない。