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蔵書で家の床が沈むほどの愛書家だった児玉清さん

佐伯 谷原さんは、僕の小説を読んでくださっているそうですね。

谷原 ええ。亡くなった児玉清さんに薦めていただいたのがきっかけで読み始めて、もうずっと、没頭して読んできました。

佐伯 僕は、児玉さんがお亡くなりになる晩年の5年ほど、深いつながりを持ったお付き合いをさせていただきました。2006年に、あるイベントからの帰りの電車で児玉さんと話したことがあるんです。その時、ちょうど『居眠り磐音』のドラマ化の話がきていて、どうしようかと思案していたら「ああ、それはよかったね。僕はあれが演りたいなあ、今津屋の由蔵(老分番頭)になりたいなあ」とおっしゃって。あれから13年ですか。ドラマを経て映画という形になった。児玉さんは2011年に亡くなられて、演じてもらうことはできなかったけれど、ご親交のあった谷原さんが今津屋吉右衛門を演じてくださった。感激しています。

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愛書家だった故・児玉清さん ©文藝春秋

谷原 児玉さんとは「トップキャスター」(2006年放送)というドラマで初めて共演させていただいたんです。児玉さんて休憩時間にちょっとふらっと出て行っては両手に紙袋を下げて帰ってくるんですよ。「何買っているんですか」と聞くと「本だよ」と。尋常じゃない量なんですね。フランス語の原書から時代小説、ちょっと硬めのノンフィクションも。「読めるんですか、これ全部?」と言ったら、「もうペラッと読んじゃう。僕1日に2、3冊くらい読んじゃうから」というようなことおっしゃって。

佐伯 蔵書で家の床が沈むほどの愛書家でしたからね。

児玉さんが「絶対面白いから読んで」と

谷原 「どんなジャンルを読むんだい?」なんて言われて、「探偵小説も読みますし、時代小説も読みますし……」「お、時代物読むの?」「ある程度は……」と言ったら、「お薦めのがあるんだ。僕はね、今この時代小説にはまっているんだよ。佐伯泰英さんの『居眠り磐音 江戸双紙』、絶対面白いから読んで」と言われたのが、いまは無き渋谷ビデオスタジオなんですよ。それからどっぷりはまりました。

佐伯 そんな嬉しい言葉はないです。

谷原 児玉さんは由蔵とおっしゃってたようですが、僕は吉右衛門の方が絶対に似合うと思うんですよ、児玉さんは。

佐伯 そうなんですよ!

谷原 ええ。ですから僕、吉右衛門役のお話をいただいた時に、名代と言うとおこがましいんですけれども、児玉さんの代わりに演らせていただくような感覚がありました。

佐伯 あの頃、児玉さんからよく、谷原さんの話を聞きましたよ。「まだ独り者なんだ」なんて心配もしていて。

谷原 ハッハッハ! その後、僕も結婚しました(笑)。

佐伯 実の息子さんのようなお気持ちで接していらっしゃいましたね。

 今回「居眠り磐音」で谷原さんが今津屋吉右衛門を演じられる、いやあ、児玉さんが「良かったね」と言ってくれる気がするんですよね。なんだか親子ではないんだけれど、2代にわたってお付き合いいただいた感じが私はいたしましてね。ぜひ谷原さんとお話をしてみたいと思っていたんです。

谷原 感謝しかないです、本当に。(中略)

 小説『居眠り磐音』はこれから51巻、すべて〈決定版〉が出ていくわけですね。