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スマホで撮っても、伝えたいことの「核」が抜け落ちる

 じつはこの感覚こそ、飯川雄大が今作で表したかったことの根幹だ。人は何かと出会ったり思いがけぬ体験をしたとき、強く心が動く。なんらかの衝動が生まれる。その後すぐにこれをだれかに伝えたい、共有したいとの思いが湧くのは自然な流れ。昨今ならスマホをフル活用して写真、映像、文章、音声などで感動を発信しようとする。

飯川雄大
《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん―》
2019年
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京)
撮影:木奥惠三
画像提供:森美術館

 私たちが日常で繰り返している行為だけど、よく考えれば情報や感情の伝達が、完璧に行なわれたためしなどないんじゃないか。現場で受けた圧倒的な感覚は、伝えようとするといつも目減りしてしまう。いちばん伝えたかったことの「核」が、写真や映像や文章にして届けようとすると、いつしか抜け落ちている。ちょうど飯川のピンク色の猫の全貌が、写真に撮ろうとしてもどうにも収まらないのと同じように。

 飯川の《デコレータークラブ》は、見た目の楽しさだけに留まらず、「衝動とその伝達」について深く考えさせられる作品なのだった。

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アンドロイドを作品にする動機

 入口で「衝動と伝達」というキーワードが得られると、そのあとに続く作品群の見方もぐっと広がる。《機械人間オルタ》は人工生命研究者、ロボット研究者、映像作家らが共同でつくる作品で、自律的に動くアンドロイドの姿を静謐な映像に落とし込んでいる。

土井 樹+小川浩平+池上高志+石黒 浩×ジュスティーヌ・エマール
《機械人間オルタ》 
2016年-
ジュスティーヌ・エマール
《ソウル・シフト》
2018年
ビデオ
6分

 科学、倫理、未来予想、映像美といろんな方面から考えるべきことが押し寄せてきて混乱してしまいそうだけど、この作品の衝動と伝達したいことは何かと問えば、頭がすっと整理される。生命とは何か、そこに美は関係していないかを知りたい衝動が元にあり、その思いを伝達するためにアンドロイドをつくり映像にしているのだろうと考えれば、作品の意図がすんなり腑に落ちるのだ。

 ほかにもアーティストグループ「目」による《景体》は風景を物質化して見せてくれて衝撃的。佐藤雅晴《Calling(ドイツ編、日本編)》は、アニメーション映像の中で鳴り響く電話の音に、不思議な焦燥感と強烈な静けさを感じてしまう。


《景体》
2019 年
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京)
撮影:木奥惠三
画像提供:森美術館
平川紀道
《datum》
2019年
展示風景:「六本木クロッシング2019展:つないでみる」森美術館(東京)
撮影:木奥惠三
画像提供:森美術館

 大きな衝動がそこにあり、その心の動きをあらゆる手段によって伝達しようとするアーティストが、こんなにたくさんいるんだ。そう気づいてなんだか心強い気持ちにさせられる展示である。