一番大切なのは再現可能性を残しておくこと
高橋弁護士が解説する。
「今回の事件では『資料』は乳首、『試料』は乳首をぬぐったガーゼになります。同じ読みなので紛らわしいですが、そのどちらかを保存すればいい。もちろん乳首をそのままの状態で残すわけにはいかないので、洗ってしまうしかありません。
実際にどうやって鑑定をしたかと言えば、まず乳首をぬぐったガーゼをはさみで切って、半分を保管しておきます。そして、切ったガーゼから糸を計4本抜き出して、アミラーゼを抽出するわけです。4本を抜いた残りからDNAを検出します。ここでは(被告)本人のDNAを検出できました。したがって、アミラーゼも本人のDNAにもとづくものだと言えます。アミラーゼとは、唾液に含まれている消化酵素のこと。最終的には抽出液を作って、アミラーゼを抽出したのです。
問題となっている『全量廃棄』とは、この抽出液を廃棄しただけ。半分に切ったガーゼ、すなわち試料は残っている。判決は『抽出液を残せ』と言っているが、(実験の)結果しか出ていないものを残す意味がない。一番大切なのは経過です。他の人が同じ条件で再実験をしたら、同じ結果が出るための再現可能性を残しておかなければいけない。そして、本件では試料のガーゼは残っているんです。裁判官はこの点を完全にスルーしていて、きわめて非科学的な判決だと私は思っています」
二次被害に他なりません
同じく被害者支援弁護団の川上賢正弁護士は、「お医者さんはそんなことをするはずないという偏見と予断に満ちた判決です。また、インターネットを中心に被害者に対するバッシングがかなりある。判決が出たことで『嘘つきじゃないか』と弾劾されることは、被害者にとって本当につらいこと。二次被害に他なりません」と述べた。
刑事訴訟においては、検察官が公判で犯罪を証明する証拠を提出するほか、証人尋問を行うなど適正な刑罰の適用を求める。一方、「被害者参加制度」によって、一定の犯罪被害者は裁判への参加が認められている。A子さんの弁護団では、控訴審に向けて検察とすり合わせをした上で、一審判決に関するさまざまな疑義について訴えたいとしている。