強姦罪などで服役中、被害者の証言がウソと判明して再審無罪が確定した大阪府内の男性(75)と妻が、大阪府警と大阪地検による不十分な捜査や裁判所の誤判で精神的な損害を被ったとして、国と府に計約1億4000万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が1月8日、大阪地裁であった。大島雅弘裁判長は「起訴や有罪判決が違法だったとは認められない」として、男性と妻の請求を棄却した。

大阪地方裁判所 筆者撮影

 ことの発端は2008年9月にさかのぼる。“被害少女”の告訴を受けた大阪府警が、男性を強制わいせつ容疑で逮捕(後に大阪地検が強姦罪でも追起訴)。弁護側は「狭い団地の一室で、家族に気付かれることなく強姦することは不可能だ」と主張したが、2009年の一審判決では、「14歳の少女がありもしない強姦被害をでっち上げることは考えにくい」と一蹴された。結局、この事件では大阪高裁で3人、最高裁でも5人の裁判官が関与しながら、「懲役12年」の有罪判決は覆らなかった。

判決から3年半後に、急展開 「証言はウソだった」

 ところが、2011年の確定判決から3年半後、被害者とされていた少女が、男性の弁護人に「証言はウソだった」と告白。性的被害を受けた痕跡がなかったことを示す診療記録も見つかり、男性は釈放された。さらには2015年の再審判決公判で無罪を言い渡された。少女は「母親との関係が疎遠になり、本当のことを言おうと思った」と説明した。

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「強姦冤罪事件」を時系列でまとめた年表 ©文藝春秋

 なぜこのようなことが起こったのか。その背景には当事者たちの複雑すぎる事情がある。

 被害者とされていた少女は、男性が再婚した妻の連れ子の娘で、男性とは直接の血のつながりはない。事実上、「祖父」と「孫」の関係にあたる。少女の母親は、男性にとって義理の娘ということになるが、彼女こそがこの事件のキーパーソンとなる人物だ。彼女をA子さん、その娘の“被害少女”をB子さんと呼ぼう。問題はA子さんが少女時代、男性と肉体関係を持っていたという事実だ。このことは公判で男性も認めている。

男性と義理の娘(A子)、その娘で被害者とされた少女(B子)の関係を示す家計図 ©文藝春秋