昨年9月に亡くなった樹木希林さん。全身をがんで蝕まれながらも、それを感じさせない自然体な生き方が共感を呼んだ。そして、およそ半年後の3月17日、後を追うように夫でロックンローラーの内田裕也さんも亡くなった。

 

 樹木希林さんの珠玉のメッセージをまとめた『一切なりゆき~樹木希林のことば~』から、夫婦関係や内田裕也さんについての味わい深い発言を厳選して紹介したい。

「孫が3人いるロックンローラーもいないでしょう?」

(今、幸せですか?)それは……幸せなんじゃないの? だって内田が言うんだから。「孫が3人もいて、お前みたいに幸せな女優はいないぞ!」って。だから私も負けじと、「孫が3人いるロックンローラーもいないでしょう?」って言い返す。そうすると、内田さんも認めます。「う……わかってる、俺も幸せだ!」って(笑)。

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(「花と遺影」2016年6月)

 

内田とのすさまじい戦いは、でも私には必要な戦いだった

 最近大笑いした占いがあるの。知りあいの中国人占い師が、どうせ知れてるから観なくていいと私が言うのにむりやり観てくれて、“あなたはいかなる夫とでも最悪の妻になる星だ”って。笑っちゃったわよ。(しみじみ)“わかるわ~”って。

 内田とのすさまじい戦いは、でも私には必要な戦いだった(編注・議論はささいなことにも及んだ。たとえば玄米を食べる妻に向かって、健康なんか気にしてロックがやれるか、と夫がわめくという具合に)。戦いの最中にはたいへんな旦那さんをもらったって周りになぐさめられてたんですけど、しまいには内田が“疲れる”って言ったんですよ。“おまえを興奮させておくのは努力がいる”って。

 世間ではそう思われてない。というのも(常識的なことは)私のほうがソツなくこなしているから。私も当初はなんでこんな恐ろしく激しい人間といっしょにいなきゃいけないのかって思ったけど、いまは(心から同情して)たいへんな女房に出会った人なんだな、と。

(たとえば新しい女性ができたと聞いて)ヤキモチ焼いてわめきもすれば、内田もいいカッコして生きられるんだろうけど、“あっそう。ちょっとムッとするけど助かるわね。そっちと結婚する?”なんて言っちゃうからね。向こうが籍を抜くと言ったときは“それは違うでしょう”と言い、向こうがそんな話をしてないときに“必要なら抜くよ”と言う。(わが身をほとほともて余した様子で)男にカッコいいことさせてあげない私は、まあ、いかなる意味でも最悪の妻でしたねぇ。

(「この女性の軌跡」2001年7月)