「一番の問題は“患者への説明不足”です」
つまりこの報告からは、歯科インプラント治療そのものの有用性は評価しつつも、一定の割合でトラブルが起きている――ということが見て取れるのだ。
その背景を、昭和大学歯学部教授で日本口腔インプラント学会理事長の宮﨑隆氏に聞いた。
「一番の問題は“説明不足”です。今回の報告の中で患者が訴える“身体症状”の中には、インプラント(土台)と上部構造をつなぐネジの緩みによるぐらつきや、ネジ自体の破損などが含まれていますが、これは本来の意味で医療過誤ではなく、一定の割合で術後に起き得る現象です。また、インプラント治療は“手術”なので、術後しばらくは痛みや腫れなどが起きることも想定されます。そうした患者にとっての不利益な情報が、正しく伝わっていないことがトラブルの温床となっているのです」
事実、たとえ技術と経験のある歯科医師が手術をしても、噛むことで生じる振動で、緩みやぐらつきが起きることはあるという。また、患者が就寝中に歯を食いしばったり歯ぎしりをしたりする癖を持っていると、その影響でインプラントに不具合が生じることもある。
本来、そうした問題に対応するために、インプラントを入れた後も定期的にメンテナンスをするのだが、歯科医師がそうした現象が起き得ることの説明をしていない、もしくは患者にその理解がないと、「医療過誤」という意識が醸成されてしまうのだ。
こんな時にはセカンドオピニオンを
自由診療なので、患者自身の支払う額が大きい分、治療への期待も高まる。それだけに、患者が治療内容を理解し、納得してから治療に進むべきなのだ。
しかし、報告によると「相談に行った次の予約日にいきなり手術された」など、あきらかに歯科医師側に問題があるケースもある。脳や心臓の病気とは違って、歯の治療にそこまでの緊急性は求められない。
宮﨑教授は、こんな時には別の歯科医師にセカンドオピニオンを求めるべきだという。
「歯科医師による術前の説明がない、術前の説明で理解や納得ができない、説明は理解したが不安が残る、インプラント以外の治療法についての説明がない――などの時には、手術を急がずに別の歯科医師の意見を聞くべきです。また、歯周病や虫歯など、インプラント治療よりも先にすべき治療の必要性が見つかったにも関わらずインプラント治療を急ごうとする、あるいはインプラント以外の治療は自院で行わずに他の診療所に行かせる歯科医師も避けたほうがいい」
入れ歯やブリッジなど他の治療法との比較をさせることなく、インプラント治療に誘導させる歯科医師も要警戒だ。
もちろん、歯科医師の技術が重要であることは言うまでもない。技量の足りない医師が身の丈に合わない高難度の症例に手を出して失敗するケースもある。