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止まらない日ハム機関車

 で、後日、そのオーナーさんにアポを取り、あらためてカレーを食べに行った。オーナーさんは四元栄示(よつもとえいじ)さん、48歳。東京時代からの大のF党だった。都営三田線で水道橋まで13分という恵まれた環境に育つ。とはいえ最初は近鉄に思いを寄せていたそうだ。「赤鬼マニエル」が好きだった。が、江夏豊、柏原純一の加入で一気に日ハムに魅せられる。1981年優勝時は小学5年生だったが、生涯忘れられない思い出ができた。1993年、大沢親分が現場復帰して矢も楯もたまらなくなった。日ハムが好きだ。ファイターズが大好きだ。

 その90年代、四元さんのファン心を満たす情報源が2つあったそうだ。ひとつは文化放送の朝ワイド(『えのきどいちろう意気揚々』、毎朝、「ファイターズ讃歌」をかけ、チーム情報を発信した)、もうひとつはニフティサーブの「日ハム会議室」(通称「FIFA」、国際サッカー連盟と違って「ファイファ」と読む)だ。90年代はネットの勃興期であり、これは野球関連SNSのはしりといっていい。で、もちろん僕が意図したことだが、2つは繋がっていたのだ。当時、話題になった「ビッグバン打線」のネーミングも僕が「FIFA」の書き込みから拾って、ラジオ番組で言い続けたのが発端なのだった。

広瀬哲朗氏と四元オーナー ©四元栄示

 四元さんは色紙を出してサインしてくれと言う。えー、日乃屋カレーに「えのきどいちろう」のサイン色紙が飾られるのか!? しかも店内、「美少女キャラ」だぞ。意味不明にマニアックじゃないのか? まぁ、不承不承サインはした。翌日、額装され壁に掲示されたサイン色紙の写メが送られてきた。

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 が、話はそれで終わらなかったのだ。どうも僕の来訪は四元さんのファイターズ魂に火をつけてしまったようだ。しばらくしたら嶋田信敏(1978年ドラフト外)との2ショットが送られてきた。嶋田信敏と意気投合したらしく、そのうちファンミーティングの裏方を担当するようになる。田村藤夫、広瀬哲朗、田中幸雄ら豪華OBゲストが出演するものすごいイベントだった。僕は仕事の都合で顔を出せなかったが、四元さんから大量の写メが送られてくる。もはや暴走機関車だった。止まらない日ハム機関車。ついに四元さんは「嶋田信敏公認」のアカウントを管理・運営するようになる。

 それが去年の日本シリーズが終わって以降、たった数カ月の出来事なのだ。あり得ない。ハンパない。そのうち、日乃屋カレーの店内に嶋田信敏の往年のユニホームが額装され飾られる事態に立ち至った。繰り返すけど「美少女キャラ」と「えのきど」と「信敏ユニ」だ。濃すぎないか? しかも「信敏ユニ」は一般的なイメージの「39」番でなく、最初期につけていた「54」番のレアアイテムと来てる。一体、どういうカレー屋なんだろう。

カレー屋さんに飾られたユニホームと嶋田信敏氏 ©四元栄示

 オーナー四元栄示さんに語ってもらう。

「(日乃屋カレー)本部からは自由にやってくれと言われています。大丈夫です。店の個性はオッケーなんです。むしろやってくれと言われています。日乃屋カレーのツイートでいちばん活発なのが秋葉原店なんだそうです」

「おかげ様でファイターズファンが足を運んでくださるようになりました。今年のファイターズですか? 例年、主力がいなくなって若手が台頭するじゃないですか。今年は逆に心配ですね。金子弌大、王柏融の補強で評判がいいでしょ。うちは期待されてないほうがけっこういいとこ行くんですよね。まぁ、でもやっぱり優勝してほしいですね」

 四元さんは開幕前、早くも「ファイターズが日本一になったらカレー1杯サービス!」の実施を決めている。詳しいことは秋にチームがめっちゃ勝ってたら「日乃屋カレー秋葉原」のアカウントをチェックしてほしい。果たして日乃屋カレーの大盤振る舞いは実現するのか? 野球シーズンが始まった。僕らの夢が始まった。

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