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西武ライオンズにITを導入した“企画室長”が明かす球団の野望

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/04/21
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野球界全体に“根拠”を提示するという使命

 今年「IT戦略室」から「企画室」に名称を変えた理由はもう一つあります。球団として導入しなければいけないのは、データやITだけではないからです。

 企画室の役割は、マイナスからゼロにすることと、ゼロからプラスにすることの二つだと考えています。

 前者は、業務の効率化です。タブレット端末がなかった時代に紙でやり取りしていたものを電子化したり、チームで情報の共有をできるようにしたりすることです。数年前までのミーティングでは、選手たちみんなで同じ映像を見ていました。今は個々にタブレットを配布しているので、自分の見たいものをすぐにどこでも検索して確認できます。

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 ゼロからプラスというのは、例えば一昨年メットライフドームの固定カメラを増やしたことです。テレビの中継カメラや、バックネット裏にスコアラーが置いているカメラだけではなく、いろんな角度から撮影して一つのプレーを様々な方向から確認できるようにしました。

 さらに昨年から、1軍だけでなくファームの選手にもタブレットを配るようにしました。ファームの選手が急遽1軍に来たとき、あるいは1軍の選手がファームに行ったとき、環境が違うのは良くないからです。西武第二球場はこれから改修を行い、来年にはトラックマンを導入する予定です。

 そうして球団として目指している先は明確で、今年優勝するのがゴールではなく、毎年優勝争いをしっかりできるチームを作っていくこと。もちろんチームスタッフは今年優勝するのが仕事なので、そこだけを目指しています。

 その中で自分の腹の奥にあるのは、プロ野球に新しいものをどんどん導入していくことです。プロ野球はある程度お金がありますし、世の中の注目を集めています。

 だからこそ、例えばトラックマンやITの真価を実証し、「こういう理由があるから、若いうちからこういう育成をした方がいいよ」とか、「こんなことが起こり得るから、球数制限が必要だよ」と、野球界全体に“根拠”を提示しなければと思っています。昨今、高校野球の球数制限の是非が語られていますが、有意義な議論をするには“根拠”が不可欠です。

 私たちのようなプロ野球の球団が、自分のチームを強くするのは当たり前だと思います。ただ単に勝利を目指すだけではなく、様々な取り組みを行いながら、それを野球振興や普及につなげていかなければいけない。そうしないと、野球界の草の根に広がっていきません。

 そうやって取り組むのは使命だと考えています、プロ野球である以上は――。

(構成/中島大輔)

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