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家族問題の第一人者が提案「成熟した男は住めないアマゾネス家族」とは

娘、母、父……家族とは――精神科医・斎藤学さん×漫画家・内田春菊さんの新家族対談

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内田 斎藤先生は、覚えておられないかもしれないけど、いっぱい私にヒントをくださったんですよ。育ての父親から私は「色気づいている、色目を使っている」としきりに言われたと話したら、それは彼自身が一番誘われているのだと。「あ、そうか」というような分析をいくつもいただきました。

長女は被害者意識を持ちやすくなる傾向が?

斎藤 現代は少子化でしょう。ですから母子関係は、二人ぐらいで考えたほうがいいですね。第1子がいて、第2子が2~4歳くらいの差でくると、特に女の子同士だと、長女は母の膝をとられるわけでしょう。あなたも長女ですね。

内田 ひねくれている、ということですか(笑)。

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斎藤 私は長女病と呼んでいるのだけど、被害者意識を持ちやすくなる傾向がある。しかも、内田さんの母親はあなたに嫉妬していて、愛憎半ばする感情を抱いているのです。

©望月ふみ 協力:Bunkamura ドゥマゴ文学賞

内田 なるほど。私の場合、子供のとき、母が妹ばかりかわいがったという記憶になっているんです。さらに、母親の自分に対する敵意を感じていたこともあって、よけいにひがみ根性がかき立てられたのかもしれない。

斎藤 『ダンシング・マザー』は『ファザーファッカー』と変わっていないようにみえるかもしれないけど、実は妹さんの造形もずいぶん違います。彼女に対する筆遣いが優しいのです。長女としての恨みが吹っ切れたんじゃないかな。

内田 これまた、とても嬉しい! 書いているときは、わき上がってくる怒りを抑制させることに、最後までこだわったものですから。

 さて、これからの家族はどうあるべきか、ということを伺いたいです。というのも以前、先生は「なぜ夫婦のかたちにこだわるのかわからない」と言われたことがあるんですよ。

結婚制度にこだわる必要はあるのか

斎藤 そろそろみんな、今の健全家族みたいなモデルを卒業したほうがいいと私は思います。そもそも結婚は――昔は福祉機関だったんです。

内田 え?

斎藤 かつては大家族が一つの場所で、弱者である子供の出産、養育、老人の世話とかみんなやっていたわけです。その機能がだんだん分かれてきて、老人介護なんか、今の家族のなかでやろうとすると、家族そのものが分裂しかねない。

内田 日本でも昔は、戦死した夫の弟と戦争未亡人が結婚したりしたのも、そうしないと女性1人では生活が立ちゆかなくなるからですよね。

斎藤 そう。でも今は、重い材木を担いだり、岩をどけたりという仕事はほとんどないでしょう。パソコンのキーを押すような労働が主流で、細やかさや緻密さという部分が要求されるわけです。仕事も収入も女性でも十分拮抗できるから、結婚自体にこだわる必要がなくなってきている。そもそも男性も給料も変わらないから、妻を養うという気力が湧いてこない。

内田 私、男の人に養われたいと思ったことがなかったのでわからないんですけど、実際に結婚している人の割合はどんどん落ちていますね。

斎藤 だったら、いわゆる夫婦関係というのをやめて、女性が3~6人集まったシェアハウスを作ったらどうかと思っているんです。私は「アマゾネス家族」と呼んでいるんだけど、2階建てで、1階は共用部分で、キッチンとか浴槽が複数あって、2階にそれぞれの個室がある。