斎藤学氏は、「アダルト・チルドレン」という概念を日本に広めた精神科医で、家族問題の第一人者です。内田春菊氏は、漫画家・小説家として多くの著作を発表されてきました。
斎藤氏は、内田氏の自伝的小説『ファザーファッカー』(第4回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作)の文庫新装版の解説で、「巨大なオデッセイ的漂流叙事詩……画期的な継続観察資料である」と評しています。自身の性的虐待を描いた衝撃作から25年、今度は母親の視点から描いた内田氏の新作『ダンシング・マザー』をめぐって、お2人の話は拡がっていきました。
この対談は、3月18日、東京・渋谷、Bunkamuraで開催されました。

◆◆◆

人間の出発点は親子関係

内田 本日のテーマは、「娘、母、父……家族とは」ということになっています。先生の新刊『すべての罪悪感は無用です』には、これまで扱ってこられた問題が65項目にわたって、わかりやすくまとめられていて、私もときに反省しながら、ときにうなずきながら読みました。

 先生のもとには、ありとあらゆる患者さんがいらっしゃいます。そこには、必ずしも家族問題とはいえないケースもあるかな、ということをまずお伺いしたかったんですが。

ADVERTISEMENT

内田春菊さん ©望月ふみ 協力:Bunkamura ドゥマゴ文学賞

斎藤 人間の出発点は親子関係ですからね。私は、3歳くらいまでに人生の辞書とか文法表みたいなものが作られて、そこに外傷体験が付いて、パーソナリティが形成されていくと思っています。また、患者当人自身から情報をとれないことも多くて、家族とか周囲から話をとっていくことも多いんですよ。私は今、クレプトマニア――窃盗症にすごく関心があるのですが、やっぱりこれも根底に家族問題がある。

内田 先生は国立アルコール症センターとして発足した久里浜療養所(当時)で、アルコール依存症の患者の妻に、「あの人は私がいなくては駄目」という共依存が多いということに気付かれたんですよね。

斎藤 そう、あなたの今度の『ダンシング・マザー』の母親もそうでしょう。

内田 はい、そういう母親でした。