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未来のかたち 平沼翔太の場合

 そして、2009年のこと。福井県の中学硬式野球チーム「オールスター福井」に、体験入部の小学6年生がやってきました。名前は平沼翔太。その投球は当時ファイターズのコーチでもあった総監督、小林繁の目にとまります。将来プロに行ける素質と見込んでの指導が始まりました。それは、10月のことでした。

 翌年1月、小林繁は急逝します。その後の平沼翔太は敦賀気比高校で選抜優勝投手となり、2015年のドラフト会議でファイターズに指名されました。予想した通りの未来を、しかし小林繁が見ることはかないませんでした。

 手元に現物がないので正確なことが言えないのですが、確か道新スポーツで、亡くなる前日に日本ハム本社のイベントに参加した小林繁から平沼翔太の話を聞いたという記者コラムを読んだ記憶があるのです。福井で指導している子の中にプロに行けそうな子がいるんだよと楽しそうに語り、それじゃあまたキャンプでと元気に別れたと。

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 消えることのない魂だとか、あの世だとか。そういうものの存在を人が信じたくなるのは、こういうことがあるからなのでしょう。

 あの人が今日という日の来ることを知らないまま終わった、という残念さ。今日という日を見せてあげたかった、見てもらいたかった、という思い。いや、きっと、見てくれているよ、という願い。

小林繁の目にとまり、2015年のドラフトで日本ハムに指名された平沼翔太

 去年の文春野球コラムペナントレース、6月に斉藤こずゑさんが、プロ入り3年目にして初めて壁にぶち当たっていた平沼翔太の姿を書いています。深みにはまってもがき、自分自身に対するもやもやを隠さない様子に《こりゃあかん》と思いつつも、《そうか、これはその時がまた近づいているということなのか。またひとり、選手が大きく変わる瞬間を見届けられるということか。》《平沼選手はこの壁をもうすぐぶち壊そうとしている、ジャンプする前に姿勢は一番低くなる、それが目の前のこの姿なんじゃないかとピンときたのです。》と期待を寄せています。(2018年6月20日掲載「日本ハム・平沼翔太 3年目の大きな変化を見逃せない」

 さすがのこず姉。去年はプロ初ヒットを記録するものの最終的に1軍出場7試合9打席3安打という成績に終わりましたが、今年は5月6日までで既に10試合に出場し24打席4安打、5月4日のマリーンズ戦ではプロ初打点も挙げました(同点の場面での勝ち越しタイムリーだったので、逆転負けしていなければ初ヒーローインタビューだったと思うんですよね。惜しかったなあ)。大田泰示か近藤健介か、はたまた淺間大基か横尾俊建かと注目を集めていた三塁手争いに割って入り、頭角を現そうとしています。

 小林さん、今どこにいますか。そこから見えますか。

 平沼翔太が、遂に1軍で輝きを見せ始めました。

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