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元気な選手に育ちますように――中日の大ヒット商品、根尾昂“さるぼぼ”に込められた願い

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/26
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「垣越くんのがないのはかわいそうだ」

 では、どういった経緯で根尾選手と垣越選手の“さるぼぼ”が作成されることになったのでしょうか。

「昨年のドラフト会議で二人の入団が決まった翌日、中日新聞社の方から “根尾選手の入団が決まったので地元の飛騨高山とコラボしたグッズを作りたい”という話をいただきまして。ただ、最初はお断りしたんです。“さるぼぼ”は飛騨地方の民芸品ですから、“岐阜県以外では販売しない”ことを組合の申し合わせにしておったんです。ドラゴンズのナゴヤドームは愛知県ですからね。

 ところが再度“なんとか作ってもらえないか”とご連絡があり、根尾選手の“さるぼぼ”を作っていいかどうか、組合で緊急の理事会を開きました。“せっかく地元からプロ野球選手が生まれたんだから、我々も応援していかなきゃいけないよね”そういった意見が多数で、反対する者はいなかったものですから、お引き受けしました。

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 垣越くんの“さるぼぼ”を作ることになったのは、その後です。実際に中日新聞社の方と打ち合わせをした時に、弊社の女性社員から“同い年で同じ地元なのに垣越くんのがないのはかわいそうだ”という声があり、垣越くんの“さるぼぼ”も製作することになりました」
 
 結果、根尾選手と垣越選手の“さるぼぼ”は、ナゴヤドームでの販売開始初日の午前中に完売。中澤さんも、「まさかここまでのフィーバーになるとは予想していなかった」と打ち明けます。そしてここまで再入荷がなかったことには、こんな事情がありました。

「工場を見てもらったらわかるんですが、“さるぼぼ”は全て手作りなんですね。全部一個一個、地元のおばちゃんが内職で作ってくれているんです。だからすぐに量産は出来ないし、GWや夏休みに備えて通常の“さるぼぼ”も作らなければいけません。

 それと、人手を増やしたくても、増やせないんです。今の若い方は針仕事をすることも少ないじゃないですか。募集をかけてもなかなか来ないんですね。ですから内職をして下さっている方の平均年齢は高いです。80代の方が十数名、90代の方も一人います。ありがたいことに、中には“さるぼぼ”を作ることを生き甲斐にして下さっている方もいます」

“さるぼぼ”は全て手作りで製作されている ©カルロス矢吹

 それだけの“想い”が詰まった根尾選手と垣越選手の“さるぼぼ”ですが、品切れ状態が続いているためかプレミアがついてしまい、864円(税込)の品がネット上では倍以上の値段で取引される事態に。中澤さんはこういった状況を非常に憂慮されています。

「寂しいよね、そういう話を聞くと。残念です。出来ればそういうことをするのは辞めて欲しい。自分の利益のためではなくて、本当に根尾くんや垣越くんが好きで、中日ドラゴンズを応援するために買って欲しいですね」

 そして取材の最後に、中澤さんは根尾選手と垣越選手にこんなエールを送りました。

「もちろん早く二人揃って一軍で活躍している姿を見たいという気持ちはあります。だけど親心で考えると、あんまり無理して早くから出て怪我したりするよりも、身体がちゃんとしてから出て来てほしい。そして将来、長くに渡って活躍出来るプロ野球選手になってほしいですね」

 それは“さるぼぼ”に込められている願いと一緒ですね。そう伝えると、中澤さんは「そうですね」と言って、小さく笑いました。

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