2019年3月20日。この日、京田陽太は大きく階段を踏み外した。

 ナゴヤドーム。中日・オリックスのオープン戦。3回表1死2塁。ライト前ヒットを処理した平田良介は2塁ベースに入っていた京田に送球した。しかし、次の瞬間、あり得ないプレーが起きる。ワンバウンドしたボールを京田が後逸したのだ。打者走者は一気に2塁へ。1死2、3塁とピンチは拡大した。その後、ジョーイ・メネセスが2点タイムリーを放ち、2対0。試合はこのままオリックスが勝利した。

「完全なミス。周りからは人工芝とアンツーカーの間でバウンドが変わったのではないかと言われましたが、全然イレギュラーなんてしていません。試合後にビデオで確認しました。決して気持ちが緩んでいたわけではありませんが、あれは生涯二度と犯してはいけないミスです」

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 直後の3回裏、京田はあえなく3球三振に倒れた。

「正直に言います。思い切り、ミスを引きずっていました」

 ベンチに戻ると、低い声が聞こえた。

「もういい。今日はここで終わり」

 与田剛監督は審判に交代を告げた。

「頭が真っ白になりました」

 1年目からショートのポジションを奪い、新人王に輝いた京田。2年目はチームで唯一全試合出場を果たした。飛躍を誓った3年目。背番号は1に変わり、侍ジャパンにも選出。開幕からフルスロットルで駆け抜けるつもりだった。

 しかし、躓いた。身から出た錆。自業自得。京田は動揺した。

今季から背番号1に変わった3年目の京田陽太

開幕スタメンから外れた日

「あの日を境に地に足がつかないと言うか、フワフワしていました」

 切り替えられるはずの場所でも、あの光景が脳裏から離れない。

「いつもは家に仕事を持ち込まないんですが、開幕前は家族で買い物をしていても、ずっと野球のことがちらついていました」

 開幕前日。底冷えする横浜スタジアム。ナイター練習直前、与田監督は全員をロッカーに集め、自ら開幕スタメンを発表した。

 そこに京田の名前はなかった。

「ここが京田陽太の人生の勝負所だぞ」

 波留敏夫打撃コーチは熱く語った。

「開幕だけが全てじゃない。シーズンは長い。笑顔と元気を忘れるなよ」

 奈良原浩内野守備走塁コーチは優しく包んだ。

「良い時も悪い時もずっと見て来てくれたコーチの言葉は支えになりました」

 無言で、少し口角を上げて、ただうなずくだけのチームメイトがいた。

「おそらく『大丈夫! お前の力は必要だ』と伝えたかったんだと思います。気を使ってくれるのが痛いほど分かりました」

 笠原祥太郎は苦しむ同期を放っておくことはできなかった。

 開幕3戦目。京田は2番ショートでスタメン出場した。1回裏、DeNAは2アウト満塁のチャンス。ここで思わぬ場所から声が聞こえてきた。

「チャンスはたくさん来る。腐るなよ」

 セカンドベース上の筒香嘉智からだった。