「彼はこんなもんじゃない」
結局、京田は開幕3連戦全てに出場。思い描いていたスタートとは異なったが、多くの叱咤激励と多くの学びを得て、2019年が始まった。
「一番はリセットすること。僕は引きずるタイプ。終わったことは反省し、整理し、気持ちをまっさらにして前へ進むことが大切」
本拠地開幕戦の前日、京田は打席登場曲を選んだ。
「キャンプの時に流れていた曲で気に入ったものを携帯にダウンロードしていたんです。その中で無になれるというか、余計なことを忘れさせてくれて、クリーンな気持ちになれる曲を探したら、『マリーゴールド』でした。サビを聞くと、リセットできるんです」
今、京田はヒーローインタビューでも、囲み取材でも、同じ言葉を繰り返している。
「1日1日が勝負」
プロの世界に当たり前はない。レギュラーの座はいつ手放し、いつ失っても不思議ではない。
「今は野生の動物が獲物を捕まえる時のように本能をむき出しにして、目ん玉をひん剥いて、打席では投球に、守備では打球に食らいつくことしか考えていません」
新人王も全試合出場も、豪快な満塁ホームランも華麗なファインプレーも絶妙な三盗も、終わったことは終わったこと。常にリセットして、血をたぎらせて、敵と対峙する。
「監督には感謝です」
京田の思いを与田監督に伝えた。
「本人がそう感じてくれているなら、何よりです」
目じりがゆっくりと下がった。しかし、次の言葉で空気は張り詰めた。
「まだ早い」
息を飲んだ。
「彼はこんなもんじゃない。日本を代表するショートにならないと。これからもっと壁を乗り越えて、大きくなって欲しい」
さらに続けた。
「無視、賞賛、非難という言葉がある。それらは期待と比例する。私は意識的に無視したりはしないが、期待している選手には当然厳しくなる。スターになれる選手はほんのわずか。京田はそのわずかな選手。彼がユニフォームを脱ぐ日にあのオープン戦を思い出してくれればいい」
交代の真意を聞いた。
「懲罰を与えたと言われたけど、そのつもりは全くない。クエスチョンマークが付くプレーだったから、代えた。それまで。誰であっても特別扱いはしない。グラウンド上の選手、ベンチにいる首脳陣、全員が『あれ?』と思うプレーを今後も許すつもりは一切ない」
ブレない指揮官は選手を厳しく温かく見守っていく。
あの日に何と名前をつけようか。
「野球人生の分岐点です」
京田はそう答えた。これからも背番号1は死に物狂いで戦う姿を見せるだろう。球界トップのショートになる日まで。いや、なってからも。
ナゴヤドームには今日も『マリーゴールド』が響く。そのたび、京田はリセットする。いつかあの日を懐かしいと笑えたらいい。
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