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がん患者をどのように支えていくか

 私はもともと医療の分野を専門にしているわけではありません。むしろ、そういった分野には苦手意識を持っていました。この1年間、知識がゼロの状態から矢方さんを取材する中で、「がん治療と仕事の両立」「アピアランスサポートの重要性」など、がん患者の悩みや、患者をとりまく社会の課題を目の当たりにしてきました。当事者にならないとわからないことがあるのは当たり前です。しかし、「がん」というものを他人事にせず、より身近な問題として、見ている方にとらえて頂きたいと思っています。

 

 プライベートなことですが、昨年末に実の母が右太腿内転筋に肉腫ができる希少がんになりました。肝臓や肺にも転移していて、ステージ4という診断結果でした。現在、母は抗がん剤治療中です。矢方さんが「お気に入りのウイッグをつけているとマジでテンションあがりますよ!」と取材中よくおっしゃっているので、先日、抗がん剤の副作用で脱毛してしまった母にウイッグをプレゼントしました。

 もし自分ががんになったり、職場の仲間や家族ががんになったとき、「自分にどんなことができるか?」。そんなヒントや知識が、「#乳がんダイアリー」には詰まっている気がします。

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病気のことを「365日気にして」生活しているわけじゃない

 この1年の中で、矢方さんの印象的な言葉があります。

「病気になって、当事者になって感じますね。病気をしているけど、そこを365日気にして、生活の中心の5割をそれに考えているわけではないので、ふつうに仕事もしているし、『仕事して、えらいね』って言われるけど、私は別にえらいと思っていなくて、それが生活する中で当たり前のことだって思って、ただやっているので」(2018年9月9日の自撮り日記より)

 26歳の本音が垣間見られる日記です。

写真提供:NHK

 結婚式、カレー、大相撲、名古屋グランパス、BBQ、つけまつ毛、岡本太郎、台湾旅行、ボヘミアン・ラプソディ、釣り堀……。いったい何!? と思われる方がほとんどだと思いますが、これらはすべて矢方さんの「#乳がんダイアリー」で語られた言葉です。抗がん剤治療、放射線治療、ホルモン療法と矢方さんのこの1年は大きな試練の連続でした。しかし、約120日の自撮り日記で語られていることは、病気や治療のことばかりではありません。結婚式に行ったこと、お母さんとカレーを食べたこと、友達と台湾旅行に行ったこと。そこには“ふつう”の26歳の女性の素顔が映し出されています。

「乳がんの治療をしながらも、ポジティブに毎日を生きる」。「#乳がんダイアリー」は、矢方美紀さんの生き方そのものです。