ストレスがストレスを呼ぶ負の連鎖
他にも要因はある。「緊張」だ。山川医師が続ける。
「緊張で唾液の分泌量が低下すると、のどが渇いて、のどの動きが悪くなります。また、緊張で肩や首の筋肉が凝ると、のどぼとけの上下運動に必要以上の負荷がかかり、“無意識な動き”ができなくなることもあります」
それまで無意識にできていたことに意識が向くようになれば、それは違和感となる。その違和感の大半は不快や不安を伴うので精神的なストレスとなり、そのストレスがまた知覚過敏につながる。まさに負の連鎖だ。
ハナから「気のせい」と決めつけるのは危険
とはいえ、「のどの違和感」のすべてが咽喉頭神経症というわけでもない。Iさんがスマホで調べたように、咽頭がんでも同様の症状が出ることはあるし、他にも食道がんや甲状腺の腫瘍、頚椎症、咽頭のう胞などが原因となっていることもあり得る。
あるいは、舌の根元(最深部)にある舌根扁桃(舌扁桃)という組織が肥大化して、本当に食べたものや唾が引っかかっていることもある。これはホルモンバランスの乱れで起きることがあるので、閉経を迎えた中高年の女性に見られることが多いという。
いずれにしても、その症状の原因を見極めることが大切で、ハナから「気のせい」と決め付けるのは危険だ。
「首、甲状腺、リンパ節、筋肉の張りを触診し、その上で内視鏡を使った咽喉頭のチェック、頚部の超音波検査や、必要に応じてMRIやCTなどの画像検査を行うこともあります。食道の異常が疑われるときは、内視鏡検査(胃カメラ)かバリウム造影検査を行います」(山川医師)
考えられるあらゆる病気の存在を疑って検査をし、すべてが否定された時に残る診断名が「咽喉頭神経症」となる。つまり、「症状はあるけれど、がんなどの重篤な病気ではない」ということが証明されたわけで、この診断が下りただけで安心して症状も消えてしまう人も少なくない。
「それでも気になるという人には、半夏厚朴湯という漢方薬や痰を切る薬を使ったり、ストレスの強い人には興奮を静める作用のある薬を処方することもあります。個人差はあるものの、3カ月もすれば自然に症状も治まっていきます。几帳面な人や神経が細やかな人に多いのかと言われればそうなのかもしれないけれど、基本的には性格は関係ないと思いますよ」(山川医師)
「医学の父」と呼ばれる偉人ヒポクラテスも、この症状に興味を持ったと言われている。古代ギリシアの時代から連綿と続く「のどとストレスの闘い」は、いよいよ令和に突入する。