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『セーラームーン』『こどものおもちゃ』から考える、平成の少女マンガはなぜ“弱い少年”に恋したのか

内面に目を向ける時代に、発見された欲望

2019/04/30
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『セーラームーン』で改めて驚く「タキシード仮面、よわっ!」

 平成が1989年に始まり、1991年(平成3年)から『美少女戦士セーラームーン』(武内直子、講談社)は始まった。周知の通り、平成3年まで世界を守るために戦うのは男の子の役割だった。しかし『セーラームーン』は、「世界をすくうのは、強くてかわいい女の子なんだ」と提示する。ただ強くてかわいくないわけじゃない、弱くてかわいいのでもない。おしゃれして恋をしてかわいくなって、そのうえでみんなを守るために戦うのが、女の子なんだ、と。

美少女戦士セーラームーン 完全版(1)」(講談社)

 こうしてみるとあらためて『セーラームーン』が提示した「美少女戦士」という発想の斬新さにも目がいくが、それ以上に、原作を読むとあらためて驚くのが、「タキシード仮面、よわっ!」ということである。

 そう、タキシード仮面は、セーラームーンよりも明確に「弱く」描かれている。おそらく作者が意図的に、従来の男子戦隊モノにおける「姫」のポジションをタキシード仮面に受け渡そうとしたのだろう。戦闘ヒーロー物語を、くるりと男女逆転させてみせたのが『セーラームーン』だった。

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『セーラームーン』の影響は、もちろんその後「戦う美少女たち」として続いてゆく。『カードキャプターさくら』(平成8年~)、『神風怪盗ジャンヌ』(平成10年~)、『東京ミュウミュウ』(平成12年~)など、マンガを読みアニメを見る平成の小さな女の子は、皆まず「戦う女の子」を目にしてきたのではないか。

 同時に『セーラームーン』から始まった平成の少女マンガには、大きな転換点が訪れる。ヒーローが、「強い男」でなく「弱い少年」になってゆくのである。

心に「闇」を抱える少年に恋する物語が大流行

 1994年(平成6年)に『こどものおもちゃ』、平成8年『彼氏彼女の事情』、平成10年に『フルーツバスケット』、平成14年に『僕等がいた』の連載が始まる。挙げた作品の共通点を挙げるとすれば、「ヒロインが、恋をした少年の『心の闇』に関わってゆく」ことだ。

「心の闇」なんて言うと、大雑把なことばなのだけど、要は、学校中の女の子が恋するイケメンに、あるいは学校を荒らすただの問題児に、ひょんなことから主人公は深く関わるようになる。彼に恋をして、知っていくと、彼の過去にトラウマを抱えていることを発見する。そして主人公は、彼の心をどうにかすくえないものかと奮闘する。――このような物語類型が平成の少女マンガには広く流行したのである。