5月1日、皇太子殿下が天皇に即位し、「令和」の時代が始まった。
30年余の歳月をかけて「平成の皇室」を作ってこられたおふたりは、この日より、上皇上皇后両陛下になられたことになる。
平成8年から19年まで侍従長を務めた渡邉允氏(外務省出身)。そして、平成17年から24年まで宮内庁長官を務めた羽毛田信吾氏(厚労省出身)。宮内庁の最高幹部である侍従長を経験した渡邉氏と、長官を経験した羽毛田氏が対談するのは史上初のことである。上皇上皇后両陛下の“側近中の側近”として長くお側に仕えた両氏が、平成皇室の思い出を「文藝春秋」に語った。
まずは、羽毛田氏が宮内庁次長に就任した直後の体験である。
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「これが宮中の作法というものか」
羽毛田 思い出しましたけれど、平成13年に厚生労働省から次長として着任したときに、最初に宮内庁の仕事についてご注意いただいたのは渡邉さんからでした。
あれはある儀式の場だったと思いますけれど、陛下が入場していらっしゃり、その後から渡邉さんが随従していらした。私は次長になったばかりで、陛下のお姿を見たらすぐにお辞儀をし、そのまま陛下が前を通り過ぎられるまでずっと頭を上げずにいたのです。そうしたら渡邉さんから「陛下は職員との間でも心を通じ合うことを大事にされているので、まず陛下の目を見てからお辞儀をし、その後は頭を長く下げていなくてもいいですよ」とご助言をいただいたのです。
渡邉 そんな不遜なことを申し上げましたか(笑)。内容自体は間違っていないとは思いますけれども。
羽毛田 その当時は、「これが宮中の作法というものか」と単純に理解していました。でも、その後経験を重ねると、それが陛下の人との接し方の基本なのですね。つまり目を見るというのは一つの現われであって、どなたに対してもしっかり心を通わせるのが陛下のなさりようの基本になっている。それを単なる宮中の作法と捉えていたのは浅はかな考えだったと思って、のちのち反省いたしました。