1ページ目から読む
2/3ページ目

子守奉公のおしんと、「女子のために大学校を」を叫ぶあさ

 ということで『なつぞら』とまったく同じ日からスタートした『おしん』の再放送を追ってみたのですが、すべてにおいて容赦がありません。

 7歳の少女が米1俵で口べらしの子守奉公に出され、先輩たちからは暴力込みの指導を受ける。母はこれ以上子どもは増やせないと冷たい川に自ら入って流産しようとするし、祖母はブラジル移民の話が出た時に足手まといになるからと自殺未遂。おしんが奉公先で盗みを疑われた時は主人の前で着物を脱がされる。

 これ、同じくNHKで夕方の時間帯に再放送されている朝ドラ『あさが来た』の終盤、「女子のために大学校を」と、あさが政府に働きかけ、寄付を募っていたのと同時期に起きていることだと思うとすごいです。確かにあさの実家、今井家や嫁いだ白岡家は日本有数のセレブ一家ですが、大学もなにも、おしんは小作人扱いされて小学校にもまともに通えていないわけで。

ADVERTISEMENT

『あさがきた』も『おしん』少女期と同じく、明治がその舞台だ ©文藝春秋

 また、山形の冬の風景が心の底から寒そうなんですよ。登場人物の息が真っ白なのはもちろん、べったり水分を含んだ雪の重さや、あそこで倒れたら死ぬな、という恐怖感。川で洗濯をする時の手のあかぎれ。こういうのを見た後に『なつぞら』十勝の風景が目に入ると、あまりに綺麗で優しくて、なにかのプロモーションビデオにさえ見えてしまう。

ヒロインを優しく見守る王子様はどこ?

 さらに、今ではヒロインだけでなく、イケメン俳優の登竜門ともなっている朝ドラですが『おしん』に出てくるイケメンたちはどうにもクセが強い。

 最初の奉公先を飛び出して行き倒れになったおしんを助け、読み書きを教えて、与謝野晶子の詩を読んでくれた俊作兄ちゃん(中村雅俊)は逃亡兵。山狩りをする軍人に見つかり撃ち殺されてしまうし、16歳になったおしん(田中裕子)の前に現れた浩太(渡瀬恒彦)は、おしんと彼女が仕える加賀屋の娘・加代(東てる美)の運命を大きく狂わせる存在になるしで救いがない。おしんが結婚する相手も……えっと……うん。朝ドラのお約束、ヒロインを優しく見守って夢を後押しする王子様なんて『おしん』の世界には存在しないのです。

俊作を演じた中村雅俊 ©文藝春秋

 ツラい、キツいよ、橋田先生。やっぱりおしんの“しん”は“辛抱のしん”じゃないの?