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今季の好調の理由のひとつは……

 転機となったのは、筑波大学時代に欧州へと飛び出したことだ。日本では母校を拠点にする一方で、アスリートとしてはウクライナやエストニアといった東欧諸国に滞在し、ダイヤモンドリーグや世界室内ツアーの各大会だけでなく欧州で開催されるさまざまな競技会に出場した。

 日本式とは異なる「質」重視のトレーニング法や、長身選手ならではの跳躍法など、多くのことを学ぶことができたという。その後はケガにも苦しみ、右肩上がりの成長とはいかなかったものの、ようやくここにきてその成果が花開いている。

 今季の好調の理由のひとつは、助走の歩数を6歩に固定したことだ。それ以前はもっと多くの歩数で助走をすることもあったが、会場によってはスペースの関係上、助走が取れないこともあり、短い歩数で固定することにした。それによって跳躍のブレが少なくなり、記録が安定したという。

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競技と研究の2足のわらじを履いていた

 走り高跳びは非常に繊細な競技で、数センチの踏切のズレが大きな記録の差につながる。ゴールデングランプリの大会後には、自身の跳躍をこう振り返っていた。

ゴールデングランプリ大阪での戸辺直人 ©AFLO

「2m30cmにバーが上がってから、追い風がすごく強くなってしまって。それまでの助走では踏切が中に入りすぎていて全然跳躍にならなかったので、最後は思い切って2足分、60cm助走を伸ばしたんです。それである程度、形になったんですけど、それでも全然踏切までは繋がりませんでした。最後の最後まで跳躍がまとめきれなかった感じです」

 風などの外部要因で微妙な感覚が変わってしまうからこそ、いかに良い時の跳躍を再現できるかが重要になる。再現性を高めるために、戸辺は昨季までは筑波大学の大学院にも所属し、競技と研究の2足のわらじを履いていた。修士課程を2年、博士課程で3年を過ごし、コーチング学の博士学位も取得。競技を科学の面からも紐解いた。そのことも自身の跳躍に活きているという。

「風が強かったり難しいコンディションの中でもそれなりにまとめられたのは良かったと思います。条件が良ければ35cm、40cmと、より記録も狙っていけると思う。世界選手権では金メダルを狙いたいですね」

両親ともに日本選手権で日本チャンピオンに輝いた

 もう一人、これまで日本が苦戦してきた種目で世界に飛び出そうとしているのが、走り幅跳びの橋岡優輝(日大)だ。

 今年4月のアジア選手権では自己ベストを13cm更新し、日本歴代2位の8m22cmをマーク。今季の世界ランキングでも4位に位置し、27年ぶりの日本記録更新と、初の世界選手権でのメダル獲得が視野に入ってきている。

 橋岡は、陸上競技界のサラブレッドだ。

 父は棒高跳びの元日本記録保持者で、母は100mハードルの元日本記録保持者。両親ともに日本選手権で日本チャンピオンに輝いた経験が複数回ある。また、Jリーグの浦和レッズに所属する橋岡大樹はいとこにあたる。そんな豪華なバックボーンに加えて、端正なルックスも相まって人気急上昇中の選手だ。