「まだ僕は日本記録を出していないので(笑)」
当の橋岡は、7m80cmで3位に終わったゴールデングランプリでの跳躍についてはこう分析する。
「アジア選手権でも自分の跳躍ができなかった部分があって、まだそこをひきずっていた部分がありました。体力的な面でも、2月からアメリカに行ったり、何度も海外遠征をしていたりで、時差の関係があったり、多少体に疲れがあって。今一度、日本選手権に向けて作り直して、日本選手権ではしっかり日本記録を越えて3連覇を成し遂げたいと思います」
ゴールデングランプリでの微妙なファウルの中には、8mを越えた跳躍もあった。好記録で安定した跳躍を維持できているようにも見えるが、本人としては記録的にはまだまだ上が見えているという。
「助走のスタートの時に、地面の“奥の方”を捉える感覚を大事にしていますが、その辺の感覚がいまはちょっと自分の中で乱れている。言葉にするのが難しいですが……自分の身体の真下で地面の“奥”を捉えられればいいんですけど、身体の後ろの方にそのポイントがずれてしまっていて、ちょっと後ろに力が逃げている感じがありました。
そういうのもあって、スタートで上手く乗りきれなかった。そこをどう修正するかはコーチと相談しながらですけど、しっかり直せれば、普段通りの自分の状況に戻ってきて、また8m40cm~50cmあたりの記録を狙って行けるかなと思います」
この8m40cmという距離は、リオ五輪の金メダルの記録に相当する。橋岡はすでに、その領域まで視野に入ってきているのだろう。
「まだまだ今のままでは両親に認めてもらえないと思います。だってまだ僕は日本記録を出していないので(笑)」
そう笑う橋岡には、限界はまだ見えていない。
記録以上に「勝負強さ」を求められる
幅跳びも高跳びも、非常に複雑で繊細な競技だと言える。
技術面もさることながら、その日のコンディションや体調次第で、トラック種目以上にガタっと記録が落ちてしまうこともある。だからこそ五輪や世界選手権といった舞台で好成績を残すには、記録はもちろんのこと、それ以上に「勝負強さ」を求められる。
戸辺と橋岡には、その勝負強さも備わりつつある。
戸辺は室内ツアー最終戦で、中国選手と最後まで競り合った試合のなかで、セカンドベスト記録を出した。橋岡は本調子ではなかったというアジア選手権で、追い詰められた最後の1跳躍で逆転勝利を決めてみせた。
大舞台で本来の力を発揮できた理由のひとつは、2人がまだまだ自身の記録の先を見据えているからだろう。
戸辺は「2m40cmを跳んでからが勝負」と明言しているし、橋岡も前述のように「8m40cm~50cmまでは見えている」と語っている。
これまででは考えられなかったレベルの記録を叩き出し続けている日本跳躍陣。
東京五輪で最も盛り上がりを見せるのは、彼らの一跳びかもしれない。