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「日本企業相手に裁判を起こす動きを止めさせるべきだ」

 実際に韓国政府相手に訴訟を起こした被害者団体も存在する。

「私が韓国政府に言いたいのは、徴用工問題で日本企業相手に裁判を起こす動きを政府が止めさせるべきだ、ということです。なぜなら韓国政府はその前にやるべきことがある。だから韓国政府を訴えたのです」

 こう語気を強めて語るのは、アジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会のチェ・ヨンサム(崔容相)事務局長だ。同遺族会は多数の戦争被害者や遺族が参加する有力団体の一つである。

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アジア太平洋戦争犠牲者韓国遺族会のチェ・ヨンサム事務局長(筆者撮影)

 同遺族会は、昨年12月20日、徴用工被害者と遺族1103人を原告として、韓国政府を相手取り1人あたり1億ウォン(約1000万円)の補償金を求める訴訟をソウル中央地裁に起こしたのだ。韓国政府を相手に複数の裁判が起こされており、軍人・軍属等の広義の意味での徴用者を含めた原告の累計は1386人にも上り、その数はさらに増え続けているという。日本製鉄や三菱重工業相手の徴用工裁判と比較すると、裁判に参加した被害者数は比較にならないほど大きい。

「韓国政府は、日韓条約に基づいて日本からお金を受け取っています。韓国政府はその受け取った資金を(戦争)被害者に渡さなかった過去がある。だから私たちは、日本から韓国政府が貰ったお金が被害者に渡っていないという状況を“正す”ことが必要だと思いました」(チェ事務局長)

企業相手の訴訟は根拠が薄いケースも多い

 チェ氏らは当初は日本企業相手の訴訟も行っていた。その点について問うと、こう語った。

「やはり正しい裁判は韓国政府相手のものになると考えています。だから私たちは『今後、日本企業相手の訴訟はやらない』と宣言し、これまで提起した訴訟も順次取り下げていく予定です。企業相手の訴訟は根拠が薄いケースも多く、実態が掴みづらいというのもその一因です」

韓国で「火曜日デモ」について報じるメディアはない(筆者撮影)

 韓国では日韓基本条約の交渉記録の資料が公開(※日本では非公開)されている。その記録によると、日本側が被害者補償について提案したところ、韓国政府側から「自国民の問題だから韓国政府で行う」と反論したことが明示されている。キム・インソン氏もチェ・ヨンサム氏も、こうした歴史的経緯を検証したうえで、補償の責任は韓国政府にあると考えているのだ。

 徴用工問題において最大の障壁となっているのが、韓国政府が盧武鉉時代の補償対応をもって、韓国政府の責任は終わりであるというスタンスをとり続けていることにある。

 いま行われている徴用工判決に対する対応にも、それは如実に現れた。

「韓国政府は判決に関して『司法を尊重する』と公式にアナウンスしていますが、実は内々で徴用工判決問題への対策を協議していました。しかし、徴用工問題は全体で10万人規模にも及ぶ大規模な問題であり、韓国政府が対応を始めたら補償費が莫大になってしまうという結論に至った。それで韓国政府は徴用工問題を放置するという方針を決めたといわれています」(韓国メディア記者)

 国交正常化後、最悪とも評される日韓関係の悪化を引き起こした徴用工裁判、その正体とは何なのか。

 本連載では知られざるその歴史と、実態について明らかにしていきたい。