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「やりたいことが見つからない」症候群は現代の病なのだろうか

やりたいことがなければいけないの?

2019/06/03

 こうして文章を書く仕事をしているせいか、私がイグアナと子猫に囲まれてだらだらと悠々自適に生きているように見えるからか、最近たびたび「やりたいことが見つからないんです」と悩みを打ち明けられることが増えました。

家の前で捨てられていた子猫を保護しました。本文とは関係ありませんが、お楽しみください ©吉川ばんび

好きなことを仕事にできればいいと思うが……

 初めは「そういうこともあるよなあ」と特に気にすることもなかったのですが、やがて相談をしてくれるのは知人だけにとどまらず、SNSのメッセージやメールで、会ったことがない人からもそういった連絡が立て続けにくるようになり、「一体何が起こっているんだ」と戸惑いつつも「私なんぞでよろしければ……」と返信をする日々を送っています。

 彼らのほとんどは20代前半~30歳くらいまでの会社勤めの若者で、共通するのは「今の仕事は特別やりたいことではないし、好きなことを仕事にできればいいと思うが、肝心のやりたいことが見つからない、どうしたらいいか」という悩みです。

 こういう相談を受けるたび、私としては「やりたいことというのは、果たして悩んでまで見つけるものなのだろうか」と思うし、彼らの焦燥感の背景には「やりたいことで生きていけ!」みたいな「キラキラしながら生きているように見える誰か」の発言や、「好きを仕事にしている人は幸せだ」という昨今の風潮があるのではないかと思ってしまいます。

名前はオニャンコポン(仮)です ©吉川ばんび

「やりたいことを見つけろ!」と言われても

 私もかつて、やりたいことが見つからないまま新卒で会社に入り、仕事に特にやりがいを感じないまま生きていた者の1人です。仕事が楽しいか、と聞かれると即答で「いや楽しくはないですね」と答えていましたし、正直に言うと私にとっての仕事とは、あくまで「生活するための手段」でしかありませんでした。個人的には「やりたいことが仕事でなくても安定した収入があって、プライベートで友達と飲みに行ったり、趣味を楽しむ余裕があるならいいんじゃないの」くらいに思っていましたが、当時の私にとって非常に厄介だったのは、先に書いたような「やりたいことを見つけろ!」とか「お前には夢がないのか!」とか言ってくる人たちの存在でした。

 その頃、私は兄による家庭内暴力から身を守るために一人暮らしをして、心療内科に通いながら残業や休日出勤をこなし、お金に困っていた両親に金銭援助をすることに必死で、やりたいことがどうだの、好きなことを仕事にするだのと考える余裕はまったくありませんでした。だからこそ、自分の生き方に口を出されるのは苦痛で仕方がなく、彼らが純度100%の親切心から助言してくれているのだとは分かっていても、ついつい「もう放っておいてくれよ……」とげんなりすることしかできなかったのです。