世の親たちにとって、子どもの偏食ほど対応に苦慮するものはないのではないだろうか。栄養バランスを考えて作った食事に手をつけない。口に入れても吐き出す。そんな時つい口にしてしまいがちなのが「これを食べないと〇〇みたいに強くなれないよ!」というセリフである。〇〇の中にはしばしば戦隊ヒーローやスポーツ選手などが当てはめられる。しかし当の〇〇自身が偏食だった場合、セリフの説得力はまるで失われる。

 そんなことを、昨年のキャンプ中に放送された西川龍馬の昼食シーンを見ながら考えた(注1)。その日の西川の昼食メニューは「鍋焼きうどん、フランクフルト2本、ポテトフライ(駄菓子)、チョコバット(駄菓子)」。練習中の食事なので消化の良い、エネルギーになりやすいものを選んだのかなという推測を差し引いても、栄養バランスを考慮しているとはおよそ言い難いメニューであった。西川自身の「好きなものを食べています」というコメントも相まって、西川=偏食のイメージが強く残ったのである。

 一般に偏食は良くないことと考えられている。体が資本のアスリートなら尚更のことだ。ところが偏食のアスリートは意外と多い。野球界でまず真っ先に思い浮かぶのが、今年3月に引退を表明したイチローである。「毎朝カレーを食べている」「野菜嫌い」など偏食ぶりに尾ひれがついて広まっているイチローだが、本人は雑誌のインタビュー(注2)で、カレーは毎日食べる訳ではなく、野菜についても「食べられないわけじゃない。好きなものを食べて満足したいだけなんです。どうしても食べてと言われれば、食べますよ」と否定している。しかしオフに日本に帰国した際には毎日同じ店で同じメニューを食べるなど、イチローが食に対して強いこだわりを持っていることは間違いない。

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西川とイチロー 偏食以外の共通点

 西川とイチロー。偏食以外にも何か共通点があるだろうか。ともに左打者であること、左打者でありながら左投手を苦にしないこと、そのバッティングセンスが「天才」と称されること……等、挙げてみれば多くある。その中でも両者に共通するイメージが「明らかなボール球を打ってヒットにする」姿ではないだろうか。俗に言う「悪球打ち」だが、ここでは驚きと尊敬の念を込めて「変態打ち」と呼ばせてもらう。

 西川の場合、今年5月以降の38安打(6月5日まで)のうち、明らかなボール球をヒットにしたのは6安打。割合にすると少なく見えるが、例えば先日5月28日の対ヤクルト戦4回表、西川はヤクルト先発・原樹理の低めに落ちるフォークを地面スレスレで叩いてセンター前に弾き返した。バットをすくい上げて打つその姿はまるでゴルファーかテニスプレーヤー。変態打ちは強烈なインパクトを残すがゆえに印象に残りやすいのであろう。

西川龍馬のストライクゾーン ©オギリマサホ

 しかしこうした変態打ちについて、西川は「課題を言うと、個人的には『打率を残してこそ』だと思っているので、選球眼もそうですし、ボール球に手を出してしまったり、もったいない打席が多かったことです。そこはもっと減らしていかなければならないと思っています」(注3)と反省する。しかしそれは改善すべきものなのだろうか。「変態打ち」は一つの個性なのではないだろうか。

 一方イチローの「変態打ち」について、野村克也氏の著書(注4)の中で
イチロー自身の表現として「選球眼」ならぬ「選球体」と紹介されている。目で見てストライク、ボールを判断するのではなく、自分にとって打てる球か否かを体で判断できる能力があるというのだ。西川が「天才」と称されるのも、まさにこの「選球体」を備えているからではないだろうか。