「ファシズム」と聞くと、「過去のものでしょ」と反応する人が多いのではないだろうか。しかし元外務官僚・佐藤優氏は「アメリカで中国で、そして日本でファシズムが生命力を増している」と警鐘を鳴らす。

 第二次大戦前と現代の国際情勢の相関からファシズムの台頭を指摘してきた政治学者・片山杜秀氏と『現代に生きるファシズム』(小学館新書)で対談した佐藤氏。“知の巨人”はなぜ21世紀の今、ファシズムに注目するのだろうか。

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なぜ今「ファシズム」なのか

 世界をファシズムという妖怪が徘徊している。アメリカのトランプ大統領もロシアのプーチン大統領も中国の習近平国家主席もこの妖怪に取り憑かれている。わが日本の安倍晋三首相にもこの妖怪が取り憑き始めている。

5月に来日したトランプ大統領とゴルフを楽しんだ安倍首相 ©JMPA

 ファシズムを理解するためには、資本主義の内在的論理をとらえる必要がある。現下の主流派経済学(一昔前までは近代経済学と呼ばれていた)は、商品や貨幣を自明の事柄とする。これでは資本主義の本質はわからない。ここで役に立つのがマルクス経済学の知識だ。ここで注意してほしいのは、私が重要と考えるのは、マルクス経済学であって「マルクス主義経済学」ではないことだ。マルクス主義経済学は、資本主義体制を打倒し、社会主義革命を起こすという認識を導く関心に基づいて構築されたイデオロギー(現実に影響を与える思想)だ。

 これに対してマルクス経済学は、『資本論』でマルクスが展開した労働力の商品化という概念によって、資本主義社会の内在的論理をとらえる歴史主義的アプローチを意味する。現実に存在する資本主義は、『資本論』が想定している純粋な状態で機能しているわけではない。経済政策によって国家が介入する。しかし、資本主義の本質を変化させることはできない。その本質とは、人間が持つ労働力を商品に替えることだ。労働力商品の対価である賃金よりも多くの価値を、労働は生み出すことができる。この剰余価値を資本家は搾取しているのである。

アマゾン、ZOZOTOWN……巨万の富と絶望的な格差

 アマゾンのジェフ・ベゾス氏にしても、ZOZOTOWNを運営する前澤友作氏にしても、巨万の富を手にした人は、労働者を雇用し、この人たちが作り出す剰余価値を搾取しているのだ。資本主義社会において、搾取は完全に合法である。なぜなら、資本家と労働者の間で自由、平等な雇用契約に基づいて賃労働がなされ、そこに搾取という仕組みが埋め込まれているからだ。従って、常識的な見方では、労働者は搾取されているという認識を抱かないのである。『資本論』の論理によると、奴隷労働や封建時代の年貢は、搾取ではなく、暴力を背景とした収奪だ。収奪は、街のチンピラによる「喝上げ」、暴力団による「みかじめ料」のようなもので、資本主義体制下では違法行為だ。

アマゾンの巨大倉庫で働く人々 ©getty

 労働力商品化を原理とする資本主義社会では、必然的に資本家(特に巨大資本)と労働者、農民、自営業者などの格差が拡大する。格差社会で、ある水準以下の底辺層に転落すると、自力で這い上がることが難しくなる。そこで、資本主義体制を抜本的に転換するという思想と運動が出てくる。対抗運動として有効なのは、共産主義とファシズムだと私は考えている。一部の人たちは、イスラム原理主義を資本主義への対抗運動ととらえているが、これは間違いだ。イスラム原理主義には生産の思想がない。従って、自立できず資本主義体制に寄生することしかできないので、共産主義やファシズムのように抜本的な社会転換をもたらす力がない。