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「自転車で走るのにちょうどいいんですよ」

 そうして昇降棟に出ると、そこからはエレベーターで地上に降りる。もちろん隣には階段もあるのだが、その段数は実に115段。下りはいいけれど登りは怖い。奥津軽いまべつ駅は地上3階、ずいぶんと高い場所にある駅なのである。で、エレベーターで楽をして外に出てみると……駅前には誰もいないし、そもそも人の気配もない。小奇麗に整備されたロータリーこそあるけれど、その向こうにはまごうことなき森が広がっている。本州最果ての山の中、きっとサルとかシカとか、場合によってはクマなんかも出るのだろう。そんな森が、駅前にどーんと待ち構えている。

「階段は、115段あります!」……注意喚起してくれている
ロータリーの向こうにはまごうことなき森が

 奥津軽いまべつ駅はその周囲に市街地どころか小さな集落のようなものもないようだ。だから1日に約60人しか乗車しないというのも至極納得なのである。もちろん、本当になにもないわけではなくて、駅の隣には立派な道の駅があって、地元の特産品などを売っている。中にはいってみると、数人の観光客やサイクリストと思しき人たちの姿もあった。

道の駅いまべつ

「この駅からね、山を越えて津軽半島を走るんです。なだらかなアップダウンが続くから、自転車で走るのにちょうどいい。6月でもまだ涼しいから気持ちがいいですよ」

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 サイクリストの1人がこう話してくれた。確かに、東京から新幹線に3時間半ばかり乗って降りたらすぐに人里離れた山中を自転車で走れるというのは魅力的なのかもしれない。

実は“乗り換え”できる……のだが

 そんな“秘境駅”奥津軽いまべつだが、実は“乗り換え”できる路線がある。駅のあたりを一瞥する程度では見当たらないのだが、道の駅の裏手にひっそりと1面のホーム。JR津軽線の津軽二股駅である。この津軽線に乗れば、さらに津軽半島の先っちょ、本州最北端の駅・三厩まで行くこともできる。……のだが、貼り付けてあった時刻表を見てみると、どうにもこうにもならないのである。

道の駅の裏に線路がある
こちらが津軽二股駅
1面のホーム

 新幹線だって奥津軽いまべつに停車する本数は上下あわせてわずか14本。津軽線津軽二股駅に至っては、定期列車では上下あわせて10本だけだ。これらがうまく接続するダイヤになっていればいいのだが、それすらまったく考慮がされていない。筆者が降りた新幹線は10時7分着だったが、三厩行の津軽線に乗り継ごうと思ったら約2時間も待たねばならないのだ。ローカル線の旅に長い待ち時間はつきものとは言え、これじゃあさすがにキツイ。そもそも奥津軽いまべつ駅と津軽二股駅はJRによる公式な乗り換え駅ではないらしいから、もうどうしようもないのである。