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2019/07/01

女性を追いかけて無一文に陥る「困窮邦人」も少なくない

 日本では2040年、65歳以上の独居世帯が全体の3割を超えると推測されている。男性の生涯未婚率は23%、女性は14%で、独居化の流れは止まりそうにない。これに伴う孤独死の増加も深刻だ。

「日本にいる60代の独身の方は考えて下さい。フィリピンなら出会いがあります」

 そう言い切る中澤さんにとっての南国への入口は、地元高知県にあるフィリピンパブだった。脱出老人たちの中には、パブで出会った女性を追いかける者がとにかく多い。中澤さんもパブへ通ううち、紹介してもらった若いフィリピン人女性と結婚し、日本でしばらく暮らした。だが、老後は海外でと考えていたため、先にフィリピンへ渡った女性と住む家を建てるため、送金を続けた。しかし、女性に浮気が発覚し、離婚。送金額は約500万円に達していた。

 フィリピンには、女性を追いかけて散財した挙げ句、無一文に陥る「困窮邦人」が少なくない。ビザの更新ができずに不法滞在になり、お金も尽きて路頭に迷う。日本の親族とは長年音信不通のため、援護を求めて在フィリピン日本大使館へ駆け込んでも、送金のあてもない。フィリピン人住民の優しさにすがって生きるしかなくなるのだが、高齢のために体調を崩せば、やがて死に至る。

フィリピンでは日本に帰国できない「困窮邦人」も暮らす ©水谷竹秀

 一歩間違えれば、中澤さんも同じ轍を踏んだ可能性はあっただろう。だが、女性と離婚し、独り身となってからは、ショッピングモールで店員の若い女性に声をかけまくるという突飛な行動に出た。そうして出会った女性たちと食事やディスコへ遊びに行ったりを繰り返し、新たに出会ったのが現在の妻、エメリーナさんだった。中澤さんが語る。

「私は頭も薄いし、ちびで醜い男やけど、それでもフィリピン人女性たちはかまわないと言ってくれるんです」

「愛情がないのは承知の上です」

 日本で同じような行動を取っていたら、相手にされないどころか、不審者と間違えられるだろう。しかし、それを可能にさせるフィリピンという国の摩訶不思議さの裏には、お金の力が働いているのは否定できない。中澤さんも、それは頭で理解していた。

「若いフィリピン人女性が、日本人のおっさんなんかに愛情がないのは承知の上です。『愛されている』と言うおっさんたちは錯覚しているだけ。けちだったら寄りつかないし、気前がよかったら有り金全部使われる。うまくいく分岐点はその中間かな」

©iStock.com

 エメリーナさんと交際を続けた中澤さんは、2012年末に結婚した。以来、6年以上が経過した今も、仲睦まじい関係を続けている。そんなフィリピンでの日々を振り返り、中澤さんはこうしみじみ語った。

「フィリピンに来なかったら、今頃日本で1人寂しく暮らしていたと思います。日本は先進国になりすぎた。物価が高い、法律が色々とうるさい。とにかく規制でがんじがらめにされるでしょ?」

 そして自身の状況を踏まえ、皮肉混じりにこう語った。

「お金持ちは日本に住めるかもしれませんが、私のような貧乏人は物価の安い海外のほうがいいんです。フィリピンに住む日本人の中には、いざとなったら帰国する人がいます。でも私は日本の家も売り払ったので、帰国するつもりはない。私の人生はここで終わりです。それでいいんです」

 日本で老後の資金が5000万円、あるいは1億円もある夫婦に比べれば、中澤さんのフィリピン移住生活は決して贅沢とは言えないだろう。それでも中澤さんは「幸せだ」と言い切る。そこには年金の額や老後の資産だけでは決して測れない、もう一つの幸せのかたちがあるのかもしれない。

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