狙った獲物は一振りでしとめる。パッチリ二重瞼の優しそうな顔は草食系のようだが、丸い瞳の奥は勝負師の鋭い光を放っていた。

 6月21日、東京ドームの左半分が熱狂に沸き、右半分は絶望の沈黙に包まれた。代打満塁ホームランだ。

同期入団の森福から放った代打満塁弾

 ホークスが鮮やかに巨人を逆転してみせたのは0対2で迎えた6回表の攻撃だった。まず上林誠知のソロ弾で1点を返すと、なおも2死満塁の好機を作る。ここで甲斐拓也が巨人2番手・宮國の2球目に意表をつくセーフティースクイズ。最後は一塁に気迫のヘッドスライディングを見せ、同点の内野安打とした。前日までチームは満塁機をことごとく潰してきたが、これが満塁での29打席ぶりのヒットになった。

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 なおも2死満塁の好機は続く。ここで打席に送られたのが代打の福田秀平だった。巨人は3番手で“左キラー”森福をマウンドに送り込む。

「同期入団の森福さんとの対戦だったので、楽しみな打席でした」

 福田は'06年の高校生ドラフト1位でプロ入り。同年の大学・社会人ほかドラフト4位が森福だった。かつて西戸崎にあった合宿所で寝食を共にし、若手時代は雁の巣球場でも一緒に汗と泥にまみれて夢を追った仲間だ。しかし、ユニフォームが変われば互いに容赦などしない。

 2ボール1ストライクからの4球目。「狙っていた球を完璧に捉えられた」。胸元からストライクゾーンへ曲がるスライダーを一閃した。大歓声とともに舞い上がった打球はライトスタンドの上段にズドンと突き刺さった。

 この劇弾で勝利しホークスは交流戦優勝に王手をかけた。そして2日後、福田はまた大仕事をやってのけたのだ。

'06年の高校生ドラフト1位でプロ入りした福田秀平 ©文藝春秋

足のスペシャリストからの変貌

 23日の同じく巨人戦は、勝った方が優勝という大一番。福田は「1番セカンド」でスタメン出場した。すると初回、2年連続沢村賞投手の菅野から見事な先頭打者本塁打を右中間席にかっ飛ばしたのだ。難攻不落と思われた相手エースの出鼻をくじくと、試合の流れは完全にホークスが握った。初回に4得点を奪い、2回先頭で打席に入ったピッチャーの和田毅が四球を選んだところで菅野をマウンドから引きずり下ろした。福田の勢いは止まることなく、7回の打席でも今季7号ホームランを放った。1試合2発はプロに入った初めてだった。また、普段は外野守備でスペシャリスト的な働きをするが、セカンドでスタメン出場したのはプロに入って初めてだった。「守備が上手い選手が使っているから」と今宮健太に借りたグラブで初回の丸の二ゴロなどを無難に処理した。

 交流戦最終決戦を5対1で勝利したホークスは、15年目の交流戦で2年ぶり8度目の優勝を飾った。MVPには全18試合に三塁手として先発出場し、打率.348、23安打、7本塁打、14打点、長打率.697、OPS1.094と安定した成績を残した松田宣浩が選ばれたが、インパクトでいえば福田も栄冠にふさわしい活躍だったのではなかろうか。

「ボクなわけないですよ(笑)。そりゃ、松田さんでしょ」

 惜しかったねとの言葉に自嘲気味に笑った福田だが、彼もまた交流戦では6本塁打を放った。常にレギュラーとして出場したわけではないので、打席数は松田の73に対して福田は44しかない。長打率.744は規定打席未満の為にランク外だったが、この数字自体は、松田はもちろん交流戦本塁打王の山田哲人(ヤクルト/同.629)や交流戦長打率1位の鈴木大地(ロッテ/同.711)をも上回る数値だった。

 福田の打撃力は、昨シーズンから急激に上がっているのだ。

 もともと足のスペシャリストとのイメージが強い。'11年から5シーズンに跨って32連続盗塁を成功させている。NPBの規定では複数シーズンで作られた記録は公式には認められないので参考記録となるが、これは実質的な日本記録。「メジャーならば複数シーズンでも認められるのに」と悔しがっていた。

 しかし、福田は突如「代打の神様」になった。昨季の代打成績は23打数8安打、打率.348を記録した。20打数以上ではプロ野球3番目の好成績だった。

 そして本塁打が増えている。一昨年までのプロ11年間でわずか通算8本塁打だったのが、昨シーズンは自己最多の7本塁打を放ち、今季も7月1日現在で同じ7本塁打をマークしている。

 プロで10年以上のキャリアを積み、今年2月に30歳を迎えた今、いったい福田に何が起きたというのか。