リーグ連覇を狙う今季、西武ファンを最も心配させているのがセットアッパー・平井克典の「酷使問題」だ。
チームの73試合消化時点で39試合登板は、松井裕樹(楽天)と並びリーグ最多(今季の成績は7月1日時点、以下同)。投球数は804球で、リーグの中継ぎ投手で最も多い(「データで楽しむプロ野球」参照)。ツイッターで「aozora」さんがつぶやいているデータを参考にすると、「回跨ぎ」はリーグ最多の16回ある。
「同僚とかに『疲れているの?』って聞かれると、『俺、人間だから疲れるよ』って(笑)。でも、ファンの人に心配してもらうのはありがたいですけど、そんなに投げすぎという感覚はないです」
5月24日の日本ハム戦の前、平井自身はそう話していた。
菊池雄星(現マリナーズ)と同い年の中継ぎ右腕は入団3年目の今季、70試合登板を目標に掲げ、順調に登板を重ねている。首脳陣の信頼の証しのように、連投、「回跨ぎ」は当たり前で、5 、6点差で勝っている試合終盤でもマウンドに登る。他の中継ぎ投手への信頼が薄いのか、分業制の確立された現代野球では“非常識”とされる起用法が何度も行われている。
そんな投手陣の運用者こそ、今季8年ぶりに現場復帰した小野和義コーチだ。
「ケツをたたきまくります。昭和でいきますよ」(日刊スポーツ電子版より)
開幕前にそう話していた“昭和の男”の起用法に、懐疑的なファンは少なくない。メディアにとっても平井の登板ペースは大きな関心事で、たびたび記事になっている。
一方で不思議なのが、小野コーチの声がほとんど報じられていないことだ。
「あの人、あんまり喋らないですよ……」
放送関係者からそう聞いていたが、誰も伝えないならば、“文春野球砲”が直撃することにした。
小野コーチに直撃 平井の「酷使問題」をどう見ているか
「俺、悪いこと、何もしてないよ(笑)」
6月28日のオリックス戦の試合前練習を終えた小野コーチに「文藝春秋」と書かれた取材パスを見せて名乗ると、冗談が返ってきた。同日の試合前時点で平井の登板試合数はリーグ2位、投球数は中継ぎで同1位という事実を振ると、「いいじゃないですか、いいじゃないですか」と饒舌に語り出した。
「彼自身が持っている能力をもうちょっと引き出せると思うので、いろんな経験をさせている。極力、壊さないと言うとおかしいけど、あまり無理をさせないように。このままだと70試合くらい放れるでしょうから、そこまで投げて大丈夫という体力がつけば、彼はもっと進化するでしょう。セットアッパーとしてのキャリアをどんどん積んで、球界を代表する中継ぎになることを僕は目指しているし、彼も目指しているでしょうから。あとは投げていくうちに1年間、70試合もつ体力さえつけば、全然大丈夫だと思います」
実際、平井は多くの試合に投げたいと望み、首脳陣は信頼を寄せている。それなら両者にとってWin-Winかもしれないが、問題はシーズンをトータルで考えた場合だ。例えば交流戦の最後、6月23日の阪神戦では7回から登板したが、5点リードで迎えた8回を「回跨ぎ」させる必要はあったのか。
「でも、1イニングに何点取られるかはわからないわけですよ。その勝っているゲームをとりに行くのだったら、一番信頼の置けるピッチャーを出したほうがいい。それが5点差だろうが、6点差だろうが、うちが勝っているのをとりにいくんだったら、そういうピッチャーしか(任せられる者は)いない。その前に連投させていれば、別ですけど」
たとえ5点リードがあっても、他の投手より信頼感のある平井を続投させるのが勝利への近道ということだろう。加えて言えば、「回跨ぎ」はメンタル的に難しいというリリーフ投手は少なくないが、平井は「もう1回投げられるなら、いいじゃんって!」と言い切るほどである。
西武の先発投手の防御率4.75はリーグ最悪で(「データで楽しむプロ野球」参照)、平井ほど信頼度の高い中継ぎ投手はいないのが実情だ。小野コーチが続ける。
「基本的には1イニングで行けばいいけど、うちは先発がそれほどもってない。平井が6、7回、7、8回と行けるのであれば、助かるし。それが今後、あいつの野球人生の中で逆に生きてくれればいい。『1イニングしか持たないよ』というピッチャーじゃなくて、『2イニング、いつでも行けますよ』というピッチャーであれば、使い勝手がいい。基本的に、投げる体力は絶対に必要なので」
中継ぎ投手にとって、「投げる体力」は試合でしか身につかないと平井も話している。
「先発とは別で、僕らはショートイニングで一気にマックスに持っていかないといけないので、疲労もかかってくる。試合の疲労に耐えられる練習というのはないですしね」